カニエ・ウエスト「反ユダヤ主義発言」で推定資産2,200億円失う 10日間でビリオネアから転落

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アディダスは25日、ラッパーのカニエ・ウエスト(Ye)とのパートナーシップ契約を打ち切ると発表した。

フォーブスによると、今年のカニエの純資産は約20億ドルで、アディダスとのパートナーシップによる資産価値を15億ドル(約2,200億円)と推定。契約を失うことで、資産は4億ドル(約585億円)まで減少すると報じた。残った資産には、不動産や現金、音楽カタログ、元妻キム・カーダシアンのブランド「スキムズ」の株式5%が含まれるとしている。

アディダスは声明で、「Yeの最近のコメントや行動は許容できない。憎悪的で危険だ。多様性や包括性、相互尊重、公正という同社の価値観に反する」と契約打ち切りの理由を述べた。Yeezyブランドの商品の生産停止とともに、カニエに対する支払いを停止すると表明。これにより、今年の純利益から「2億5,000万ユーロの短期的なマイナスの影響が出る」可能性があるとした。

アディダスとカニエは2013年にパートナーシップを締結。2015年に初のスニーカー「Yeezy Boost 750」を発売し、アパレルラインもローンチした。モーニングスターのアナリストDavid Swartz氏は、アディダスのYeezyブランドの売上は、年間20億ドル以上(全収益の10%)と分析している。

カニエは16日、ポッドキャストの番組「Drink Champ」で、「自分は反ユダヤ主義的な発言ができる。アディダスは自分を切ったりすることはできない」と契約継続に、自信をのぞかせていた。

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アディダスが契約解除を発表する前には、JPモルガンチェースやVogue、バレンシアガ、タレントエージェンシーのCAAなどが、カニエとの関係を解消している。さらにプロダクション会社MRCは、完成していたカニエのドキュメンタリーの放送を見送ると明らかにした。

これまでの経緯

カニエは8日、自身のツイッターを約2年ぶりに更新したが、直後に「ユダヤ人にデスコン3(death con 3)をするつもりだ」と投稿。ツイッター社は9日、ポリシーに違反するとして投稿を削除し、アカウントを一時的に凍結した。なお、デスコンは、安全保障上の脅威を示す軍事用語「DEFCON」(デフェンス・コンディション)を引き合いにしたものとみられている。

この前日にも、インスタグラムに投稿したコンテンツが、ポリシー違反だとして、アカウントを一時凍結されている。

カニエの発言による悪影響も報じられている。SNSには、ロサンゼルスで先週末、ナチス式の敬礼をした集団がハイウェイの高架道路に現れ、「ユダヤ人に関してカニエが正しいと思うなら、クラクションを鳴らして」と書いた横断幕を掲げる様子が投稿されている。ロサンゼルスタイムズによると、ユダヤ人やLGBTQに関する陰謀論を記したチラシが配布された地域もあったという。

反ユダヤ主義のエスカレートにつながるとして、キム・カーダシアンやアディダスなどに対し、行動を求める声が高まっていた。

これを受け、キムは24日、自身のツイッターでカニエの発言を批判。名指しはしなかったものの「ヘイトスピーチは決して良くないし、許されない。ユダヤ人コミュニティと団結し、ひどい暴力やヘイトに満ちたレトリックを直ちに止めるよう求める」と投稿した。

アディダスの発表直後、既に契約が終了していたギャップも、カニエとのコラボレーション商品「Yeezy Gap」を店頭から回収すると発表。専用サイトyeezygap.comを閉鎖した。

なおカニエは、英司会者ピアース・モーガン氏からツイッターへの投稿内容を反省しているかと尋ねられると、「いや、絶対にない」と強調。「相手と同じ手段を用いただけだ」と発言し、「異なるタイプの自由の戦士だ」と語った。一方で、混乱を生じさせ、家族など「自分が傷つけた人々には、申し訳なく思っている」と謝罪した。

カニエが右傾化?

カニエは、今月3日にパリで開催したYeezyのファッションショーで「ホワイトライブズマター」Tシャツを着用し物議を醸した。それ以降、差別的な言動に対する批判が止まらない状態となっている。

15日に配信されたポッドキャスト番組「Drink Champ」では、保守派の論客キャンディス・オーウェンズ氏のドキュメンタリー番組を見たと明かし、警察官に殺害された黒人男性、ジョージ・フロイド氏はフェンタニルの摂取によって死亡したと主張した。フロイド氏の遺族はこの発言に対し、死因について誤った主張を行ったとして、2億5,000万ドル(約375億円)の損害賠償を求め、カニエを提訴する意向を明らかにしている。

17日には、保守系ソーシャルネットワークの「パーラー」を買収することで大筋合意に至ったと発表。カニエは声明で「保守派の意見が問題視される世の中で、われわれは、自分を自由に表現する権利があることを確実にしなければならない」と語っている。