言論の自由はどこまで通用する?ジョージ・フロイド氏の遺族、カニエ・ウエストを名誉毀損で提訴へ

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警察官に殺害された黒人男性ジョージ・フロイド氏の遺族は18日、死因について誤った主張を行ったとして、ラッパーのカニエ・ウエスト(Ye)に2億5,000万ドル(約375億円)の損害賠償を求め、提訴する意向を明らかにした。

カニエは15日、ポッドキャストの番組「Drink Champs」で、保守派の論客キャンディス・オーウェンズのドキュメンタリーを見たと明かし、フロイド氏はフェンタニルの摂取によって死亡したと主張していた。

なお、放送されたエピソードは現在削除されている。番組のホストN.O.R.Eは、内容を見返して「恥ずかしいと思った。・・発言を許した自分にも責任がある」と述べ、謝罪を表明した。

フロイド氏の体内からは微量のフェンタニルが検出されたものの、ヘネピン郡検死局と医療専門家は死因について、首を8分間押さえつけられ、酸欠になり死亡したと断定している。事件後、人種差別や警察の暴力に抗議する「ブラックライブズマター」運動が全米に拡大した。

訴訟は、フロイド氏の娘ジャンナさんの母で、元交際相手のロキシー・ワトソンさんが原告となり、「ハラスメントや不正流用、名誉毀損、精神的苦痛を与えた」として、カニエやビジネスパートナー、関係者に2億5000万ドルの損害賠償を求めるとしている。

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代理人のパット・D・ディクソン弁護士は声明で、「フロイド氏の命を軽視したもの。非人道的な死で儲けようとする不快な試み」とカニエを非難。発言は言語道断とし「責任を負わせる」と述べた。

遺族側はカニエに「言論の自由の権利には、ハラスメントや嘘、フロイド氏のレガシーの不正流用などは含まれない」として、発言の停止通告書を送達したという。

法律専門家はNPRに対し、今回の訴訟は、憲法修正第1条の表現の自由が焦点になるとし、遺族は困難な法廷闘争を強いられる可能性があると指摘している。

シラキュース大学「言論の自由のためのタリー・センター」のロイ・S・ガターマン所長は、「名声が損なわれた原告は現在生きておらず、名誉毀損行為の可能性はない」と説明。名誉毀損で訴えるには「原告が現存する必要性があり、家族には提訴する資格がない」と述べた。

精神的苦痛についても、発言が「意図的かつ無謀、良識や道徳の範囲を超え、妥当な危害との因果関係があることを証明する必要」があり、証拠の収集が難しいとの考えを示した。

一方で、最近判決が下されたサンディーフック銃乱射事件の名誉毀損裁判の例を挙げ、不可能ではないとも説明した。

遺族は、乱射事件をデマだと主張してきた陰謀論者のアレックス・ジョーンズを名誉毀損で提訴しており、コネチカット州の裁判所の陪審は12日、9億6,500万ドルの損賠賠償の支払いを命じている。