ハマスが人質のアメリカ人親子を解放、その理由は?

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ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスは20日、人質にとった米国人の母娘を解放するビデオを公開した。

解放されたのは、イリノイ州シカゴ在住でアメリカとイスラエルの二重国籍を持つジュディス・ラーナンさんと娘のナタリーさん。7日、ガザ国境近くのキブツで85歳になる母親の誕生日を祝うために訪れていたところ、ハマスの戦闘員によって誘拐された。

ビデオには2人が赤十字の関係者に引き渡される様子が撮影されている。

ブリンケン国務長官は20日に開いた会見で、2人はイスラエル当局によって安全に保護されていると説明。米国大使館のチームが間もなく面会する見込みだと発表した。

米国民10人がいまだに人質になっているとし、すべてのアメリカ人を解放し、他のすべての人質を解放するための緊急の作業を継続していると語った。なお、人質の数は全部で200人を超えるとみられている。

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人質救出の取り組みの詳細については公にできないとする一方で、今回の解放について「カタール政府の重要な支援に感謝したい」と述べた。記者からカタールの役割について詳細を求められると、「カタールに関して私が言えることは、彼らの支援に非常に感謝しているということだけだ。それ以上のことは本当に言えない」と繰り返した。

解放の理由は?

なぜ2人を最初に選んだのか明らかではない。ハマス側は解放を「人道的な理由」とするとともに「バイデン氏とそのファシスト政権による主張が虚偽で根拠のないものであることを米国民と世界に証明する」ためだと発表している。

イスラエル軍でパレスチナの情報活動を率い、長らくハマスの指導者を観察してきたというマイケル・ミルシュテイン氏はワシントンポスト紙に、解放の目的は、交渉にオープンな可能性をほのめかすことで、イスラエルのガザへの地上攻撃を遅らせることや制限することにあるとの考えを示した。

International Crisis Groupのアナリストのタハニ・ムスタファ氏は「明らかにハマスのPR活動」と主張。ハマスは「ISISのような独善的な組織」という説を払拭することに熱心だと語った。

ネットでは、2人がNBCニュースの元中東特派員で、テルアビブ支局長だったマーティン・フレッチャー氏の親族だった点を指摘する声も上がっている。ただしフレッチャー氏は20日、NBCの番組に出演し、解放の写真を見てはじめて知ったと説明。解放の理由は「わからない」と述べ、PRの可能性やバイデン氏のスピーチがハマス側の反応を引き起こした可能性もあると語った。

解放がもたらす影響は?

先述のミルシュテイン氏は「新たな発展であり、新たな機会が開けるかもしれない」とする一方で、イスラエルが政策や計画を変更する可能性はないと指摘。イスラエルの世論は、さらなる人質解放と引き換えにハマスに存続の機会を与えることを許さないだろうとし、「人々はハマスを地図上から根絶することを決意している」と語った。

タイム・オブ・イスラエルによると、イスラエルのツァヒ・ハネグビ国家安全保障顧問は先週、「イスラエルは地球上から一掃すると誓った敵と交渉を行うつもりはない」と述べ、人質の家族から非難を浴びていた。

同紙はまた、ハマスはカタールに、イスラエルで収監中のパレスチナ人36人の釈放を条件に、女性と子供、または高齢者の人質を解放する用意があると伝えたが、イスラエル側は受け入れなかったと報じている。