ウクライナの「外国人義勇兵」募集に潜むリスク、専門家が警告

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アゾフ
Sovastock/Shutterstock

ロシア軍の侵攻を受け、ウクライナ政府は外国人戦闘員の募集を行っているが、専門家からは、これが極右過激主義者の運動の拡大へとつながる危険を指摘する声が上がっている。

アメリカン大学で過激主義者の研究を行うシンシア・ミラー・イドリス教授は、MSNBCに寄せた論説で、善意で集まる義勇兵の中には、「白人至上主義と極右過激主義」に関係する人々がいると指摘。ウクライナは近年、白人至上主義者らの国際的なハブとなっており、超国家主義者の民兵組織に入隊して実戦経験を積むことを目的に、ネオナチや白人至上主義者の外国人戦闘員が集まっていると述べた。

ウクライナ軍の一部には、「アゾフ大隊」と呼ばれる民兵組織を含む、超国家主義者のグループがあるという。

アゾフ大隊は、2014年に親ロシア派の分離主義者に対抗するために設立された部隊で、アルジャジーラによると、「ウルトラ・ナショナリスト・パトリオット・オブ・ウクライナ・ギャング」と「ネオナチ・ソーシャル・ナショナル・アッセンブリー(SNA)」と呼ばれる過激主義グループから生まれたボランティアグループだったが、港湾都市マリウポリを分離主義者から奪還した後、公式にウクライナ国家親衛隊に組み込まれた。プーチン大統領は侵攻を前に、ウクライナ東部ドネツクの一部の独立を承認したが、この直前まで親露派の分離主義者と最前線で戦闘を展開していた。

設立当初の指揮官だったアンドリー・ビレツキー氏は、2014年に議員に選出され、2016年に極右政党(National Corps Party)を設立している。

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国内軍とアゾフとの関係は度々問題視されており、米誌the Nationの記者は以前、「ウクライナは、軍隊にネオナチ部隊を抱える唯一の国家」と記している。

米議会もこれを問題とし、The Hillによると、2018年3月に成立した予算では、米国の武器がアゾフに渡るのを禁止する方針が盛り込まれた。米国は、ウクライナのロシア分離派との戦いを助けるため、2014年から資金支援と訓練を提供していたが、当時はこれを武器にまで拡大したばかりだった。

なお、先月24日にロシアが侵攻を開始した3日後、ウクライナ国家親衛隊はツイッターに、アゾフの兵士とされる男性が、弾倉に豚の油を塗った弾丸を込め、「イスラムの諸君、われわれの国では君たちは天国にいけない」などと話す動画を投稿した。イスラム教徒が大多数を占めるロシアのチェチェンの兵士へのメッセージと見られている。

一方で、プーチン大統領は24日の侵攻開始にあたって、目標をウクライナの「非ナチ化」と説明するなど、政府とこれらのグループとのつながりを誇張し、侵略を正当化する口実としている。

イドリス氏は、プーチン氏の主張は誤りであり、大半の外国人戦闘員は過激主義と関連がないとした上で、「紛争は明らかに、過激主義者が、実戦訓練とネットワークを求める外国の白人至上主義者をリクルートする機会をもたらしている」と指摘。さらにウクライナで先鋭化した外国人戦闘員らが、軍事訓練と戦術スキルを自国に持ち帰る危険もあるとしている。

各国のテロ対策当局は、ウクライナに向かう義勇兵がもたらすリスクに着目しているという。2月初旬に米国とヨーロッパから少なくとも6人のネオナチがウクライナに渡ったとされており、以降、英国ではウクライナに向かう人々の渡航目的に関して、質問事項を追加するなど、スクリーニングを強化しているという。

イドリス氏は、外国人戦闘員が紛争に関与するリスクは、参加者個々の身の安全だけではないと認識しなければならないと主張。紛争は、「白人至上主義運動の勧誘、先鋭化、動員」の危険をもたらしており、それは、紛争後終結後、時間をかけて諸外国に波及するものだと警告した。