消息不明の潜水艇「タイタン」、安全性の問題警告した従業員をクビに

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18日にニューファンドランド島から沈没船「タイタニック号」の見学ツアーに出発した潜水艇「タイタン」が消息を絶った問題で、21日も引き続き米沿岸警備隊による捜索が行われている。捜索範囲は急拡大しており、面積にしてコネチカット州の約2倍、深さ4kmに及んでいるという。

船内には、潜水艇を運営する民間企業オーシャンゲートのストックトン・ラッシュCEO、フランス人の深海探検家ポールアンリ・ナルジョレ氏、英国の億万長者ハミッシュ・ハーディング氏、パキスタンの実業家シャザダ・ダウッド氏と19歳の息子スレマン氏の5人が乗船していると報じられている。

タイタンは2018年に海上試験を開始し、2021年に就航。昨年は10回の潜航を行なっている。

安全性をめぐって、2018年の段階で内部から強い懸念が示されていた。

安全性の問題警告したらクビに

2018年に労働安全衛生局に内部告発を行い、同社から訴えられた元従業員デビッド・ロックリッジ氏は、同年提出した反訴状の中で、安全性に関する再三の警告にもかかわらず、幹部らは措置を講じるどころか、自分が解雇されたと主張している。

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ロックリッジ氏は2015年から同社に勤め、マリン・オペレーション・ディレクターとして「潜水中または海上での乗員乗客の安全の確保」を任務としていた。

ロックリッジ氏の説明によると、2018年にエンジニア部門から自部門に船体が引き渡される前から、製造プロセス全体における明らかな欠陥が複数人によって指摘されていた。引渡しにあたり、ラッシュCEOから品質検査を依頼されたロックリッジ氏は、報告書を作成するためにエンジニアリング・ディレクターに重要な資料の提出を求めたが、「敵意を剥き出しにされ、検査手続きの一環として自由に入手できるはずの必要書類へのアクセスを拒否された」。

2018年1月に完成した品質管理検査報告書で、「深刻な安全性の懸念をもたらす数々の問題」を特定し、是正措置を提案した。主な懸念は、船体の完全性や安全性を確認する「非破壊検査」が実施されていないことだった。当時、そのような検査を実施する装置は存在せず、「故障しそうになった時に船体の破壊の可能性を検知する音響監視システムにのみ頼ることになる」と聞かされたという。

ロックリッジ氏は、音響分析では、多くの場合、部品が圧壊する数ミリ秒前にしか検知できず、「船体に圧力がかかる前に既存の欠陥を検出することは不可能」と警告。「非破壊検査は、乗客と乗組員の安全のために堅固で安全な製品を保証するために非常に重要」と再度指摘した。

なお船体には金属ではなく炭素繊維が使用されていた。当時、船体が炭素繊維の有人潜水艇がタイタニックの沈む深度4,000メートルまで到達した例はなかったという。

報告書の発行直後にCEOとエンジニアリング部門のトップらを交えた会議が招集されたが、ロックリッジ氏はここでなぜ、エンジニアリング部門から船体全部にあるビューポート(覗き窓)の情報へのアクセスを拒否されたのか思い知らされる。4,000メートルまで潜航する計画であったにもかかわらず、製造メーカーが認証していたのは水深1,300メートルまでだった。オーシャンゲートは、4,000メートルの要件を満たすビューポートの製造費用をメーカーに支払うことを拒否していたという。

ロックリッジ氏は反訴状の中で「料金を支払う乗客は、実験的設計や船体の非破壊検査の欠如、潜水艇内に危険な可燃性物質が使用されていることを知らず、また知らされることもなかった」と指摘している。

同氏は繰り返して非破壊検査の実施を訴え、さらにアメリカ船級協会のような認証機関を利用し、業界の安全基準を満たしていることを確認するよう求めたが、オーシャンゲートはこの2つの要求を拒否。実験的設計を検査するために船級検査機関に費用を支払うのは不本意だと反論したという。

ニューヨークタイムズによると、ラッシュCEOは同年、海洋技術協会の有人潜水艇委員会の専門家38人から警告を受けていた。専門家らは書簡で、タイタンの乗船を販売するにあたり、DNVと呼ばれるリスク評価会社の評価を受ける計画がないにもかかわらず、同社の安全基準に合致またはそれ以上としており、「少なくとも誤解を与える」と指摘。DNVの監視下で、少なくとも試作機をテストするべきだと訴えたが、これを読んだラッシュ氏は、電話で、業界標準がイノベーションを阻害しているなどと反発したという。

同社は2019年のブログ投稿でも、タイタンは革新的であるから、通常の評価機関による認証を得るには数年かかる可能性があると主張。「革新的技術を実世界でテストする前に外部機関にスピードアップを求めるのは、迅速な革新の妨げになる」と述べていたという。