【コラム】ペロシ米下院議長の台湾訪問待っていた?中国の思惑とは

ペロシ米下院議長が台湾を訪問したことで、米中対立がいっそう激しくなり、台湾有事も現実味を帯び始めている。台湾を内政問題と位置づける中国はペロシ米下院議長の訪問直前、当然のように強く反発し、米国を強くけん制していた。中国外務省はペロシ氏が訪問すれば断固たる対抗措置を取ると警告し、習国家主席もバイデン統領との電話会談で「火遊びをすればやけどをする」と ペロシ米下院議長の台湾訪問に強く釘を刺した。しかし、中国による米国へのけん制は効かず、習政権は完全にメンツを潰された格好になった。

中国が一連の事態に反対していたことは間違いない。これまでのところ、多くのメディアは“中国が反対”、“中国が反発”などという言葉で表現している。しかし、筆者には“反対”、“反発”という言葉以上に“待っていた”という言葉が脳裏に浮かぶ。つまり、中国は反発を示す一方で、今回のペロシ米下院議長による台湾訪問を待っていたということだ。

それは習政権が掲げる海洋戦略にある。簡単に説明すると、中国には第1列島線、第2列島線を超え、米国に対抗するため西太平洋で軍事的影響力を高めるという戦略目標がある。また、国家主席に就任して間もない習氏は2013年、訪米した際に当時のオバマ大統領に対して、「太平洋には米中がそれぞれ自由に活動できる十分な空間がある」という太平洋分割統治論を提唱した。

こういった戦略やビジョンを持つ中国からすれば、“今回米国のペロシにやりたいようにやられたのだから、我々も太平洋(に近づくため台湾周辺)で軍事活動を強化する”という言い訳が成立することになる。たとえば、ペロシ米下院議長の台湾訪問に強く反発してきた中国は当初、8月7日まで4日間の日程で軍事演習を実施する予定だったが、その後も軍事演習を続け、それを常態化させる様子を見せている。中国は日本政府が尖閣諸島の国有化宣言を行ったことをきっかけに、今日まで中国海警局の船を尖閣周辺で航行させる活動を常態化させているが、今回もペロシ米下院議長の台湾訪問を1つのトリガーとして、現状変更の常態化を狙う可能性が高い。

中国は、尖閣周辺や台湾周辺での軍事活動を常態化させることで米国をけん制し、自らの海洋勢力圏をどんどん東方へ延ばそうとしている。こう考えると、中国は米国にして、“やれるものならやってみろ!お前がやればこちらはそれを口実にあらゆる手段で対抗する”と思っていることは間違いない。むしろ、米国から圧力を掛けられることを待っているかのような態度だ。今後も同じようなことがあれば、中国は反発するだろう。しかし、狙いはただ反発するのではなく、中国はそういった事態を待って、それを口実に行動をエスカレートさせようとしている。

■筆者 カテナチオ:世界情勢に詳しく、特に米中やロシア、インド太平洋や中東の外交安全保障に精通している。現在、学会や海外シンクタンクなどで幅広く活躍している。