ウクライナ侵攻から8ヶ月になるなか、ロシアの劣勢が顕著になっている。プーチン大統領は9月下旬、軍隊経験者などの予備兵を招集するため部分的動員令を発令したが、国内ではそれに反発する動きが一気に拡大した。各地では反対する市民と治安部隊との間で衝突が発生し、逮捕者や負傷者が相次いでいる。動員を免れようとする多くのロシア人がフィンランドやジョージア、カザフスタンなど隣国へ脱出した。

これと並行して、プーチン大統領はウクライナ東部南部のドネツク、ルハンシク、サボリージャ、ヘルソンの4州で住民投票を行い、4州のロシアへの併合を発表した。今後公用語をロシア語とするなど4州のロシア化がいっそう進められることになるが、ウクライナ軍は東部4州でも優勢になっており、併合が単なる“宣言”に終わる可能性も十分にあり得る。

これらがプーチン大統領の苦肉の策であることは想像に難くないが、こういった状況に中国やインドなどこれまでロシアを擁護してきた国々もプーチン大統領に賛同できないとするサインを示し始めており、今後はロシアによる核使用が懸念されている。

仮に、プーチン大統領が影響を一部の地域に限定できる小型戦術核を使用したとしても、核使用という問題になればバイデン政権はいっそうロシア、もっと広くいえば欧州の安全保障に割かれる時間が増えることになる。既にウクライナのゼレンスキー大統領はNATOへ加盟する意思を示し、東欧や中欧の多くのNATO加盟国もそれに賛同する意思を示している。核使用となればその動きに拍車が掛かり、NATOとして一体的な行動を求められるようになる。米国は加盟国を牽引する立場であり、NATOへの関与は引きずられることになろう。

そうなれば、バイデン政権が最も重視する中国との戦略的競争において、日本を含むアジアの安全保障で中国の行動がさらにエスカレートする恐れがある。今日の台湾問題において、中国は本当に米国が台湾防衛に関与するかどうかを見極めており、米国がそうできないタイミングをうかがっている。今後、ロシアが限定的にも核を使用するとなれば、世界の関心が欧州の安全保障に一極集中するだけでなく、米国もNATOへ引き込まれる。その際、中国はそれを好機と捉え、台湾問題などでよりいっそうアジア、西太平洋での行動をエスカレートさせるであろう。

■筆者 カテナチオ:世界情勢に詳しく、特に米中やロシア、インド太平洋や中東の外交安全保障に精通している。現在、学会や海外シンクタンクなどで幅広く活躍している。