【コラム】尖閣諸島国有化から10年 なぜ中国は「口実戦略」を進めるのか

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    8月初めのペロシ米下院議長の台湾訪問によって、緊張が一気に高まった。訪問すれば緊張が高まることは訪問前から分かっていたことで、バイデン政権も正直“要らないことをしてくれた”というのが本音だろう。ペロシ米下院議長の訪問前から、中国は再三にわたり忠告していた。中国外務省は、訪問すれば強い対抗措置を取るとけん制し、習氏は7月下旬のバイデン大統領との電話会談で火遊びをすれば必ず火傷すると釘を刺していた。

    しかし、今になって分かるのは、中国は初めからそういった口実を探し、それを理由により強硬な手段で台湾や米国を威嚇、けん制しようと計算していたことだ。同訪問直後から、中国は台湾東部や南部など台湾を包囲するような軍事演習を行うだけでなく、中国軍機の中台中間線越え、台湾離島へのドローン飛来などが大幅に増加するようになった。そういった新常態を作り出した中国は、今後もペロシ訪問の際に生じたレベルの緊張でなくても、同様の行動を取ってくる可能性がある。

    この口実戦略は、当時の野田政権が尖閣諸島の国有化を宣言した時にも使われた。今月11日で、日本政府の尖閣諸島国有化宣言からちょうど10年となった。国有化宣言に対し、中国は強く反発し、中国国内では反日デモや日本製品の不買運動が展開されたが、実はそれ以降、中国船による日本の接続水域への進入日数が大幅に増え、中国船の尖閣諸島への領海侵入などは常態化している。この国有化宣言も、中国が主張と行動を強める口実に使われたとみていい。

    ペロシ訪台と国有化宣言は、中国に主張と行動を強める口実を与えたという点で共通している。おそらく、今後も中国は事あるごとに“口実探し”と“常態化”をセットにした行動を続けていくことだろう。そうやって既成事実を積み重ね、台湾周辺や海域で中国有利の軍事、安全保障環境を構築し、台湾を諦めさせる戦略を重視することだろう。一方、そうなれば、台湾への軍事侵攻の可能性はないと思われるかもしれないが、常にそのオプションを取れる戦術は維持すると思われる。

    ■筆者 カテナチオ:世界情勢に詳しく、特に米中やロシア、インド太平洋や中東の外交安全保障に精通している。現在、学会や海外シンクタンクなどで幅広く活躍している。

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