鳥インフルエンザのワクチン準備を、トップ科学者が警告

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英ウェルカム財団の理事長で、昨年12月に世界保健機関の次期主任科学者への就任が発表されたジェレミーファーラー氏は、鳥インフルエンザ(H5N1)が、次のパンデミックの最大の脅威だと警告。ワクチンや対策を早急に整える必要性を訴えた。

英紙テレグラフによると、ファーラー氏はロンドンで行われた記者会見で、ここ最近のミンクやキツネ、カワウソ、オットセイなどの哺乳類への感染は、政府の対応を要する「警告音」だと指摘。

「もし明日、ヨーロッパ、中東、アメリカ、メキシコでヒトにH5N1のアウトブレイクが起きたら、2023年中に世界中にワクチンを接種することはできないだろう」と述べ、各国政府が「少なくとも第1相・第2相臨床試験を通じて、動物界に存在するすべてのインフルエンザ株に対するワクチンを獲得することに投資」するべきとの考えを示した。

鳥インフルエンザは、1996年に中国で確認され、その後世界中の野鳥や家禽の間に広がった。ヒトへの感染は通常はなく、ごく稀とされる。2003年以降、WHOに報告された鳥インフルエンザによるヒトの感染者数は868人、死者数は457人となっている。

科学者らが懸念を寄せているのは、ここ数年でより多くの種類の鳥類や哺乳類に広がっていることで、この中で「公衆衛生に影響を与える」可能性のある「遺伝子変異」が観察されていることだという。

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先月発表された、スペインのミンク農場で広がった鳥インフルエンザの研究によると、PB2と呼ばれる遺伝子に通常みられない変異があることが解った。このような変異は、ヨーロッパケナガイタチにおいて、これまでに一度しか確認されたことがなく、ミンク間で感染を繰り返すうちにこのような変異が生じたものと考えられる。

同様の変異は、2009年に世界的なパンデミックを引き起こした豚インフルエンザウイルスの持つ鳥インフルエンザウイルスとよく似たPB2遺伝子にも存在し、ヒトへの感染を可能にしている。そのため、研究チームは、こうした変異は、公衆衛生への潜在的な脅威となる可能性があると警戒を示した。

ファーラー氏は人に広がる経緯について、「もし、あなたが何か悪いものを作りたければ、人以外のインフルエンザウイルスを採ってきて、世界の家禽や野鳥の間に拡散させるだろう」「そして、野鳥や家禽を哺乳類と接触させ、徐々にミンク、キツネ、アザラシ、そして犬や猫に感染させる」「その後、哺乳類から哺乳類への感染という進化的優位性を獲得したヒトの症例のまとまりが見られるようになる」と説明。「それが世界規模で行われれば、ウイルスが大量に流通する。今起きていることはそれだ」と語った。

ワクチンの開発だけでなく、農場や市場のバイオセキュリティーの改善など、人への感染リスクを低減する対策の必要性もあるとし、今対策を進めなければ「後から悲劇的な怠慢だったと振り返ることになる」と警告した。