殺人か正当防衛か?ボデガ刺殺事件めぐり議論噴出

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マンハッタンにある食料品店で起きた刺殺事件で、殺人罪で起訴された店員のホセ・アルバ(61)被告の行いは正当防衛だとして、擁護する声が上がっている。

NBCニューヨークによると、アルバ被告は約一週間拘束されたのち、保釈が認められ自宅へと戻った。保釈金は当初50万ドルとされたが、後に5万ドルまで引き下げられた。

事件があったのは1日、ハミルトンハイツの139ストリートとブロードウェイにあるボデガ(小規模食料品店)店。公開された監視カメラの映像には、被害者のオースティン・サイモンさん(35)が、カウンターの中でアルバ被告ともみあいになった後、アルバ被告から刃物で複数回刺される様子が撮影されている。サイモンさんは近くの病院に搬送されたが、死亡が確認された。ただし、映像では、サイモンさんが最初にアルバ被告を突き飛ばす様子も見てとれる。

捜査官の話によると、サイモンさんのガールフレンドが、ポテトチップを購入しようとベネフィットカード(EBTカードと呼ばれる低所得者向けフードスタンプ)を使用したところ、受け付けられなかったことがトラブルのきっかけだったという。

事件から数日が経過し、新たな事実が報じられている。

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ニューヨークポスト紙は9日、音声付きの動画を元に、アルバ被告は当初、サイモンさんに「パパさん。問題を起こしたくないんだ」と話すなど、事態がエスカレートするのを避けようと務めたと報じた。

動画では、サイモンさんのガールフレンドが差し出したカードを機械に読み込ませようと、複数回試すアルバ被告の様子や、その後、女性が声を荒げて「わたしの娘に触れるな。娘からそれ(ポテトチップス)を取り上げるな、お前はクズだ」と罵倒する声が収録されている。「私の男をここに連れてくるわよ。彼がお前をぶち壊してやる」と脅す女性に、アルバ被告は、他の客の対応をしながら「私が悪いんじゃない。それが使えないんだ」と、あくまでもカードの非を主張。すると、店外にいたとみられるサイモンさんが、「出てこいよ」「何があったんだ」と大声を上げながら現れ、カウンターに侵入して詰め寄った。

同紙はさらに10日、別の角度から撮影された動画を公開し、アルバ被告がサイモンさんを刺す間、女性が小型の刃物をバッグから取り出して、アルバ被告の肩のあたりを刺す様子を伝えた。警察関係者は同紙に、アルバ被告が刺し傷を負っていたと明らかにしたが、女性はこれを否定しているという。

マンハッタンの検察は第二級殺人罪と武器の不法所持の罪で起訴したが、事件は現在、殺人罪が成立するのか、または正当防衛にあたるかをめぐって、議員らを巻き込んだ議論に発展している。

Reasonによると、ニューヨーク州の刑法は、正当防衛の条件として、相手が致命的な身体力を行使、または行使しようと合理的に考えた場合としているほか、相手が、誘拐、強姦、または強盗を犯す、または犯そうとしていると合理的に判断した場合に防衛としての力の行使が正当化されるとしている。

事件では、サイモンさんが詰め寄る前、ガールフレンドは、アルバ被告に「ぶち壊してやる」と脅した後、サイモンさんも被告を押し倒すなどしている。

7名の超党派の市議会議員は7日、マンハッタン地区のアルビン・ブラッグ検事に宛てた書簡で「アルバ氏を訴追しようとする事実は、あなたの曲がった正義感が、いかに暴力的犯罪者を保護しているだけでなく、実際に犯罪犠牲者の生活を破壊しようとすることを明らかにしている」と主張。「あなたは単に罪人に報いを与え、無実を罰している」と方針を非難した。

ニューヨーク市では最近、暴行事件などで逮捕された者が保釈中に犯罪を繰り返す例がたびたび報じられており、プログレッシブとされるブラッグ検事に、厳しい対応を求める声が強まっている。サイモンさんも警官を暴行した罪で起訴されており、保釈中の身だった。

エリック・アダムス市長も議論に加わった。7日、記者団に対して「ニューヨーカーとアメリカ人は、法に従う人々のために立ち上がる時だ。それが私が実行しようとしていることだ」とした上で「働き者のニューヨーカーは、職場で攻撃されるべきではない」と、アルバ被告を擁護する姿勢を示した。

現在、アルバ被告に法律サービスを提供している団体「Neighborhood Defender Service」は声明で、「アルバ氏の弁護のために事件を調査し、証拠を収集している」と述べつつ、「映像が事件そのものを物語っている。アルバ氏は単に仕事をしていたが、ずっと大柄の若者に攻撃的に追い詰められた」と、アルバ被告の行為の正当性を主張した。

アルバ被告は次回、7月20日に出廷を予定している。