最近、世界では台湾情勢に注目が集まっている。台湾有事も叫ばれる中、米軍がウクライナに直接介入しなかったこともあり、台湾市民の間では有事の時に米軍は協力しないだろうとの警戒感が強まり、昨今、台湾軍は軍事演習を強化し、市民は有事の際の避難訓練などを実施している。しかし、近年の香港情勢をみれば、台湾市民が警戒するのはごく自然な流れである。

香港では中国本土化がいっそう進んでおり、自由や市場経済、観光といった日本人にも人気があった香港の姿は殆どなくなっている。たとえば、香港大学は今後、香港国家安全維持法に関する入門講座が必修になる。最近、香港大学の全学生に送られたメールによると、憲法・基本法・国家安全維持法講座が必修となり、新学期が始まる9月1日から実施される見込みだ。また、香港中文大学、香港科技大学、香港理工大学は2023年度から国家安全維持法講座を開始する予定で、香港教育大学、嶺南大学、香港城市大学などではすでにセミナーやワークショップなどで国家安全維持法の学習がカリキュラムに導入されている。国家安全維持法は2020年7月に施行されたが、こういった香港の中国本土化は教育レベルにまで及び始めている。

また、民主活動家が軍によって鎮圧を受け多数の犠牲者が出た天安門事件から7月4日で33年を迎えたが、香港中心部にあるビクトリアパークでその追悼集会が開いていた男性5人と女性1人が香港警察に逮捕された。香港警察は国家安全維持法に基づき、民主的な議員や活動などに対して容赦ない取り締まりを強化していて、特に習政権は天安門事件というものを歴史の中から抹消しようとしており、毎年7月には香港全土で監視を徹底するようになった。

今、香港市民の中にあるのは恐怖心以上に諦めである。香港市民の多くは、自らをチャイニーズではなくホンコニーズ、すなわち香港人と思っている。しかし、そのアイデンティティは近年習政権によって浄化されつつある。2019年、2020年あたり、香港では中国本土化に反対する市民による抗議デモが相次ぎ、各地で治安部隊と衝突する場面が見られた。日本でも民主活動家・周庭氏の存在は多くメディアで報道された。しかし、彼女は逮捕され、収監されるなど今日では身の危険を感じ、活動を控えている。

今日の香港にあるのは、中国本土化はもう避けられないという市民の諦めである。これは長期的に続くことは避けられず、台湾市民もそれを理解し、今日、次は自分たちだと強い警戒感を抱き始めている。

■筆者 カテナチオ:世界情勢に詳しく、特に米中やロシア、インド太平洋や中東の外交安全保障に精通している。現在、学会や海外シンクタンクなどで幅広く活躍している。