映画『イン・ザ・ハイツ』黒人の役者不足で炎上

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トニー賞受賞のブロードウェイ・ミュージカル「イン・ザ・ハイツ」の劇場版が米国で公開された。
同作品は、ニューヨークのアッパーマンハッタンにあるワシントンハイツ(Washington Heights)の労働階級のコミュニティを舞台に、夢を掴もうとする若者の姿が活き活きと描かれる。
大ヒットミュージカル「ハミルトン」を手がけたリン・マニュエル・ミランダが作詞を、キアラ・アレグリア・ヒュディスが脚本を担当した。劇場版は、『クレイジー・リッチ!』のジョン・M・チュウ監督がメガホンをとった。

トライベッカ・フェスティバルの初日にワールドプレミア上映され、批評家から高い評価を得たが、住民の人種を反映していないと、批判の声が上がっている。

監督とキャストにインタビューを行った「ザ・ルーツ」のプロデューサー、フェリス・レオン(Felice León)氏は、主演俳優は肌の色が白い、または白人のように見えたと指摘。監督に、アフリカ系ラテンアメリカ人を起用しなかった理由を尋ねた。

これに対し、チュウ監督は「それは、私が学ぶべきことだ。われわれは役柄に最適な人々を探してきた。多くの人を見て、(出演者の)ダフネらのように、よりダークな肌の人々をキャスティングしようとした。映画を作るまで気づかなかったが、これについて話し合うのは良いことだし、話し合われるべきだと思う」と説明した。チュウ氏はダンサーやサロンなどの人々は多様性に富んでいると付け加えたが、レオン氏は「われわれは、イン・ザ・ハイツで黒人を見たかった。黒人のパナマ人や、キューバ人、ドミニカ人を見たかった。それがわれわれが望んでいることだ」と述べた。

バネッサを演じたメキシコ系のメリッサ・バレラ(Melissa Barrera)は、オーディションにはアフリカ系ラテンアメリカ人も数多く参加しており、スタッフは役にぴったりの人を探そうとしていたと擁護。「ワシントンハイツはラテン系と黒人のるつぼであり、ジョンとリンは、ダンサーなどに、コミュニティが反映されるよう非常に配慮しようとしていた」と語った。

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ネットでは「ワシントンハイツを舞台としたミュージカル映画で、黒い肌のアフロ・ラティンクスを消すのは、カラーリストで人種差別主義だ」「ダンサーや脇役で出演したからハッピーでしょと言っているようなものだ」「アフロ・ラティンクスがオーディションに来ていたのに、私たちの方が役柄に合っていたですって?」「カラーリズムに対する最悪の言い訳」「キャスティング担当が白人だからだ」「アジア系が監督したからだ」などの意見が寄せられた。また、2008年に上演されたミュージカルの時点から、黒人の俳優が欠如していたと指摘する声も上がっている。

一方で「私の母はそのリアルさを見て、オープニングナンバーで泣いた」という人も。「こんなに多くのアフロ・ラティンクスを見たのは初めてという声も、ダークスキンのアフロ・ラティンクスが不足しているという声も聞いた。個人的にはどちらも本当だと思う」と語っている。

リン・マニュエル・ミランダは謝罪

これらの意見に対し、劇場版のプロデューサーを務めるミランダは14日、アフリカ系ラテンアメリカ人の欠如に対する事実を認め、謝罪声明を発表した。

「カラーリズムに対して、傷つけられ、フラストレーションを感じた」という意見を聞いたとして、「コミュニティのモザイクを描こうとしたが、十分ではなかった。心から謝罪する」と述べた。率直なフィードバックへの感謝を示し、「将来のプロジェクトをより良くするために活かしていくことを約束する」と語っている。

リン・マニュエル・ミランダは9日、ワシントンハイツのユナイテッドパレス劇場で行われた舞台挨拶に登壇。「19歳の時にコミュニティに向けて書いたタブレターが、地元で撮影され、それを175ストリートでプレミア上映した」と述べ、「夢が1個じゃなく、7個同時に叶ったようなものだ」と喜びを語っていた。

作品には、地元住民がエキストラとして多数出演している。現在もワシントンハイツに住むミランダは「この近隣の人々が自分たちと、その描かれ方に誇りを持ってもらうことを望んでいた」とニューヨークタイムズに語っていた。

なお10日に全米公開した『イン・ザ・ハイツ』のオープニングの興行収入は1150万ドルで、公開3週目を迎える『クワイエット・プレイス』の続編(1200万ドル)に僅差の第2位だった。