自由の女神はNG?新作「スパイダーマン」中国で公開されないワケ

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スパイダーマン
DFree/Shutterstock

昨年公開され、ソニー史上最高の興行収入を達成した映画「スパイダーマン」の”ホーム”シリーズ最終章「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」。中国ではいまだ公開されていないが、その背景には、あるシーンをめぐる規制当局とソニーの応酬があったようだ。

ハリウッドレポーターの元編集者のマシュー・ベローニ氏は複数の情報筋による話として、中国政府が、ソニーとマーベルスタジオに対し、クライマックスに登場する「自由の女神」像を削除するよう要求したと伝えた

ご覧になった方なら、おわかりになると思うが、最終アクションシーンでは、シリーズの歴代スパイダーマン3人が集結。ヴィランを倒そうと、女神像の周りを縦横無尽に飛び回る。

この無理難題な要求に、ソニーは速攻で「ノー」をつきつけたとのことだが、納得のいかない規制当局者は、今度は、場面に出てくる像のシーンを「最小化」できないか尋ねてきたという。

ソニーは、この要求について検討したものの、最終的に断ったという。

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パンデミックの間、中国の映画市場は、米国を抜いて世界トップとも報じられている。ソニーは新作で、前2作を上回る1億7,000万ドル(約220億円)から3億4,000万ドル(約440億円)の興行収入を見込んでいたという。

シリーズ第1作目の「スパイダーマン: ホームカミング」は中国での興収は1億1,700万ドル(全世界の13.3%)、2作目の「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム」は2億490万ドル(全世界の18.25%)だった。

なお、米国内で歴代3位の大ヒットとなった「ノー・ウェイ・ホーム」は、5月6日時点で、全世界興収18億9,300億ドル(約2,570億円)を記録している。

検閲がエスカレート?

ベローニ氏は、中国の当局者による検閲は、例外というよりも、近年は常態化しつつあると指摘。2012年公開の戦争映画「レッド・ドーン」では、悪者が中国から北朝鮮に変更させられたほか、トランスフォーマーでは、ファーストレスポンダーが中国人になるように変更されたと説明している。

過去には、ブラッド・ピット主演の「ファイト・クラブ」のように結末が変更される例(中国版では警察が、犯人の計画を見抜き、逮捕。ビル爆破を阻止する)もあった。最近では「フレンズ ザ・リユニオン」の一部シーンがカットされた。

さらにデイリーメールは3日、マーベル作品「ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス」が先週、中国での公開が禁じられたと報じている

同紙は禁止になった理由は不明だとしているが、VOAは、国営タブロイド紙「環球時報」に掲載された論説投稿を元に、「法輪功」に関する描写が問題視された可能性があると伝えている。

投稿者は記事の中で「政府がカルトと分類し、禁じているスピリチュアルムーブメント、法輪功への賛同が含まれる」と指摘しており、一部のアクションシーンで、大紀元(エポック・タイムズ)のニュースラックが登場する点などを挙げているという。この投稿者は、大紀元を「法輪功のマウスピース」だとしている。

南カリフォルニア大学で、中国の映画産業を研究するスタンリー・ローゼン政治学教授はVOAの取材に、中国政府の近年の対応について「場面の改ざんや削除を要求するよりも、公開そのものを禁止するなど、より直接的となり、エスカレートしている」と語っている。

昨年は、アンジェリーナ・ジョリーが出演する「エターナルズ」とシム・リウ主演のスーパーヒーロー映画「シャン・チー/テン・リングスの伝説」といったマーベル2作品の上映が禁止されている。