アルビン・ブラッグとは?トランプ氏起訴に持ち込んだマンハッタン地区検事について知っておきたいこと

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ニューヨーク州の大陪審は30日、トランプ前大統領を起訴する判断を下した。捜査を率いたのは、2022年に黒人として初めてマンハッタン地区の検事に就任したアルビン・ブラッグ氏( Alvin Bragg、 49)。トランプ氏や一族の企業に対する捜査を前任者から引き継いだが、昨年2月の時点で、トランプ氏を起訴しない方針を固めたことから、訴追の可能性は消滅したかに見えた。当時、決定に反発し辞任した検察官から「見当違いで公共の利益に反する」と厳しい批判を浴びた。しかし、今年に入り新たに大陪審を招集、証拠を積み上げ起訴に持ち込んだ。

罪状は明らかにされていないが、かつて不倫関係にあったとするポルノ女優ストーミー・ダニエルズ氏(本名:ステファニー・クリフォードさん 44歳)に口止め料を払ったとされる疑惑に絡むものであることが分かっており、一部報道では、訴因は30件以上にのぼると伝えられている。

アルビン・ブラッグ
春節際パレードに参加するアルビン・ブラッグ検事©MashupReporter

アルビン・ブラッグの経歴

本人のバイオグラフィーによると、ブラッグ氏はニューヨークのセントラル・ハーレム出身で、ハーバード大学で法学位を取得。ニューヨーク州南部地区の連邦検事補、ニューヨーク州の首席司法副長官を歴任した。2021年11月の検事選に出馬し、予備選で34%の票を、本戦では83.2%(18.2万)の票を獲得し当選を果たした。

州司法長官室と出馬するまでの間に、ニューヨーク・ロースクールで客員教授と人種正義プロジェクトの共同ディレクターを務めた。この間、2014年に警官によって窒息死させられたエリック・ガーナー氏の遺族の代理人を務め、ニューヨーク市に対する訴訟に加わった。

プログレッシブアジェンダ

2021年の選挙戦では、検察のカルチャーの変更や刑事司法制度の改革を公約に掲げ、プログレッシブ候補と報じられた。

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就任初日、ブラッグ氏はスタッフに宛てたメモで、公平性と安全のバランスを保つためとして、無賃乗車や逮捕時の抵抗、その他の非暴力犯罪を起訴しない方針を通達した。さらに、商業施設における武装強盗は、身体的危害の真の危険がない場合、軽犯罪として扱うとしたほか、「非常に深刻なケース」を除いて、公判前に保釈条件を設けることを認めないとした。

しかし、この方針をめぐって、警察長官から「警官に対する暴力を招き、保護すべきコミュニティとの関係に悪影響を及ぼす」と厳しい批判を受けると、「混乱を招いた」と表明。「警官に対する暴力は容赦しない。警官に危害を加えたり、加えようとする者はすべて訴追する」としたほか、「銃を用いた商業施設の強盗は、銃が作動可能で、銃弾が込められているかどうか、本物そっくりの模造品であるかに関わらず重罪に問う」、「ナイフを突きつけたり、身体的危害を加える危険性のある武器を用いた強盗は、重罪として起訴する」と発表した。

アルビン・ブラッグ VS トランプ

ブラッグ氏は、選挙キャンペーン中、トランプ氏を提訴するのを100回手伝ったと公言。州司法長官室で手がけた訴訟には、トランプ氏の慈善団体を解散に追い込んだ案件もあるとした。

昨年8月には、トランプ一族の企業で財務部門のトップを長年務めたアレン・ワイセルバーグ氏に、税金詐欺など15の罪について有罪を認めさせた。

ジョージ・ソロスとの関係は?

ブラッグ氏は「ジョージ・ソロスが支援する検事」といった前置詞付きで報じられることも多く、トランプ氏自身、SNSで「ジョージソロスが資金提供している」、「100万ドルを超える金を受け取った」、「ジョージ・ソロスが手引きし、資金を提供した」と投稿するなど、二人のつながりを強調している。

背景には、政治活動委員会「Color of Change」が選挙戦序盤の2021年5月、ブラッグ氏を勝たせるために100万ドル以上の資金を費やすと発表したが、それから一週間も立たないうちに、ソロス氏が同組織に100万ドルの資金を提供した事情がある。

Color of Changeは当時、声明で、同組織は2016年以来「刑事司法制度に本質的変革をもたらし黒人コミュニティの幸福を優先する」全国の地方検事候補を支援してきたと説明。ロサンゼルス、シカゴ、フィラデルフィア、ダラスで進歩的な新検事が選出されているとした上で、「マンハッタンは改革が必要な時期にあり、アルビン・ブラッグがそれを実現できると確信している」と支援の利用を述べていた。

ただし、最終的にブラッグ氏に費やされた資金は、予定の半分の50万ドルに留まっており、この理由については、選挙期間中に、匿名の女性から何らかの告発があったためだと報じられている

なおColor of Changeは、USA Todayの取材に、支援先の決定に寄付者は関与していないとしている。また、ソロス氏はトランプ氏の起訴が決定した30日、ニュースサイト「Semafor」の編集長に宛てたメッセージで、「アルビン・ブラッグに関しては、私は彼の選挙運動に寄付していないし、彼のことも知らない」と直接的な関係を否定している。