トランプ氏の「口止め料」裁判いよいよスタート、もし有罪になったら・・・

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トランプ アルビン・ブラッグ
左:トランプ前大統領 右 アルビン・ブラッグ・マンハッタン地区検事©Mashupreporter

トランプ前大統領は15日からマンハッタンで始まる公判で、大統領経験者として初めて刑事事件の被告人として裁かれることになる。

事件はポルノ女優に支払われた口止め料に端を発するもので、昨年3月、ニューヨーク州の大陪審によって起訴された。訴因は30を超え、すべて有罪となれば刑期は理論上数十年におよぶ可能性もある。トランプ氏は昨年4月にマンハッタンの刑事裁判所に出廷し、罪状認否で無罪を主張した。

トランプ氏にかけられた34の「第1級の業務記録を改ざんした罪」は、ポルノ女優ストーミー・ダニエルズ氏に不倫関係を口外させないために、かつての弁護士マイケル・コーエン氏が、2016年の選挙戦終盤に支払った13万ドルに関連するもので、トランプ氏は2017年2月から12月に分割で払い戻す際に、請求書や内部記録を「詐欺やその他の犯罪を隠蔽する意図」をもって改ざんしたとされる。

マンハッタン地区のアルビン・ブラッグ検事は、トランプ氏はコーエン氏への払い戻しを法的サービスの支払いとして虚偽記載し、それには連邦選挙資金法の違反を隠蔽する意図があったと主張している。

USA Todayによると、罪状はニューヨーク州法の「Eクラスの重罪」に分類され、重罪とされるうち最も軽度の犯罪とされる。各罪状の刑期は最低1.3年から最高で4年だが、ニューヨーク州ではクラスEに対する量刑の上限を20年と定めているという。また、裁判官は裁量で、刑期を下限以下にしたり、保護観察処分を命じることもできる。

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刑法に詳しい専門家は同紙に、トランプ氏が元大統領であることや、初犯で暴力犯罪でもないことから、有罪となった場合でも刑務所に送られる可能性は低いと指摘している。

この一方、トランプ氏の最初の弾劾に際して下院司法委員会で特別検察官を務めたというブルッキング研究所のノーマン・アイゼン氏は、犯罪歴がなくても業務記録を改ざんした罪で懲役を言い渡された例があり、トランプ氏に実刑が下る可能性があるとの見解を示している。

シークレットサービスが刑務所で護衛?

大統領経験者がもし収監されることになれば、裁判官は護衛の扱いをめぐる前代未聞の判断を下さなければならない。大統領経験者と妻には、本人が辞退しない限りシークレットサービスが生涯にわたって警護することが法律で定められている。

マンハッタン地検に30年務めたニューヨークの弁護士、ジョン・モスクワ氏はUSA Todayに、平等な待遇と安全確保を両立するために、判事は、トランプ氏がシークレットサービスの保護を受けられるようにホテル棟や軍事基地への隔離を命令することも考えられると述べている。

ただし専門家によっては、刑務所でシークレットサービスの保護を受けることも可能との指摘もある。

まさかのライカーズ島の可能性?

刑事司法が専門のニューヘブン大学の准教授、マイク・ローラー氏は昨年、デイリーメールの取材に「比較的短く、数年以内ならば、ニューヨークのライカーズ島に服役するだろう。長ければ、アップステートの矯正施設のいずれかになる可能性もある」とした上で、「シークレットサービスが1人か2人、監房の外で看守と一緒に座ることになるだろう」と主張。「トランプ氏にアクセスする人物や特別房に出入りする人物をスクリーニングするのは間違いないだろう」と述べた。

なおライカーズ島刑務所といえば、劣悪な施設の環境や、精神的および肉体的な暴力など、被収容者に対する過酷な処遇で知られる。同刑務所の元服役囚には、ジョン・レノンを殺害したマーク・チャップマン、サムの息子事件で知られる連続殺人犯、デビッド・バーコウィッツ、ミュージシャンのシド・ヴィシャス、2PAC、DMXなどがいる。ここ数年では、ハリウッドの大物映画プロデューサー、ハーベイ・ワインスタインや、ネットフリックスのオリジナルドラマ「令嬢アンナの真実」で話題になったソーホーの女詐欺師ことアンナ・ソローキンも服役した。

ローラー氏はさらに、元大統領であっても処遇に例外はなく、「他の囚人たちと同様、身体検査を受け、囚人服を着用し、不快なベッドを与えられる」と見解を語った。

大統領選への影響は?

審理は6週間から8週間続くと予想されているが、有罪となればトランプ氏が控訴するのは確実視されている。

マンハッタン地検の元検事補、ダイアナ・フローレンス氏は、その場合、トランプ氏は控訴裁判所に保釈金を払って自由を確保するだろうとし、すぐに刑務所に入る可能性は「どんな罪で有罪判決を受けたとしても、1%未満」と語った。

なお有罪が確定しても、大統領選に出馬することは制限されない。憲法が定める要件は限定的で、アメリカで生まれていること、35歳以上で14年以上居住していれば良いとされている。

ただし実刑を命じられ、なおかつ大統領になった場合はどうなるか、「誰もわからない」という。

ニューヨークタイムズは、理論上、大統領が「職務の権限と義務を遂行することができない」場合の副大統領に権限を委譲するプロセスを定めた憲法修正第25条に基づく権限剥奪が可能だとしつつ、副大統領と閣僚の過半数による宣言が必要であることから、現実的でないと指摘している。それよりも、トランプ氏は収監により大統領としての憲法上の義務を果たすことができないとして、釈放を求める訴訟を起こす可能性が高いという。

大統領権限を行使して自分に恩赦や減刑を与える可能性については、合憲性が最高裁まで争われるであろうことに加え、そもそも大統領は州の罪に対する権限がない。この点、バイデン氏もニューヨークの事件についてトランプ氏に恩赦を与えることができない。

前代未聞続きのトランプ氏だが、USA Todayは、選挙に勝利すれば裁判所が任期満了まで刑期を遅らせることができるとも指摘している。