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アカデミー作品賞『グリーンブック』を巡る議論

1月24日に開催された第91回アカデミー賞では、『グリーンブック』(Green Book)が作品賞を受賞した。多くのメディアはアルフォンソ・キュアロン監督の『ローマ/ROMA』が獲得すると予想していたため、大きな驚きで授賞式は閉幕した。

なぜ『グリーンブック』の作品賞受賞は難しいと見られていたのか? アカデミー作品賞受賞まで、議論となったいくつかのポイントを紹介する。

『グリーンブック』は、実在する黒人のクラッシックピアニスト、ドン・シャーリー(Donald Shirley)が、ブロンクス出身で労働者階級のイタリア系アメリカ人のトニー・ヴァッレロンガ(Tony “Lip” Vallelonga)をドライバー兼用心棒に雇い、1960年代の人種差別が強い米南部へとコンサートツアーへと出かける物語。人種だけでなく、バックグラウンドが異なる2人が、旅を通じて、友情を育むロードトリップムービー。
アカデミー賞では、作品賞のほかマハーシャラ・アリ(Mahershala Ali)が助演男優賞を、ニック・ヴァッレロンガ(Nick Vallelonga)とブライアン・カリー(Brian Currie)、ピーター・ファレリー(Peter Farrelly)が脚本賞を受賞した。

映画化の経緯

タイムによると、トニーの息子で、映画の共同脚本を担当したニック・ヴァッレロンガは、父とドン・シャーリーに彼らの友情の物語を映画化したいと提案したという。ドン・シャーリーは承諾したが、彼の死後まで(映画化を)待って欲しいと述べたという。
これは、シャーリーの甥、エドウィン・シャーリー(Edwin Shirley)の主張とは異なっており、初めて依頼を受けた時、ドン・シャーリー氏は映画化を断わったという。しかし、その後については分からないと同誌に回答した。

シャーリーとリップは共に2013年に死去しており、ニックは2人の死後、ブライアン・カリーとピーター・ファレリーに企画化を持ちかけた。『メリーに首ったけ』などのコメディで知られるファレリー兄弟のピーターが、人種差別をテーマとした作品を手掛けることを意外と思った人もいるようだ。
2017年にマハーシャラ・アリとヴィゴ・モーテンセンが出演契約に署名し、実現に至った。

トロント映画祭で観客賞

91st Oscars
91th Academy award ©Phil McCarten / A.M.P.A.S.

『グリーンブック』は、昨年9月トロント映画祭でプレミア上映された。批評家からは賛否両論が寄せられたが、観客からは好評で観客賞(ピープルズ・チョイス・アワード)を受賞。
11月の米国公開時は、出口調査を行うシネマスコアで+A評価を獲得した。

アカデミー賞の前哨戦では、全米製作者組合賞(PGA) 、ゴールデングローブ賞コメディ部門(Golden Globes)のほかに、ナショナル・ボード・オブ・レビュー(NBR、米国映画批評会議賞)で作品賞を受賞している。

批評家からは、以下のような映画評が寄せられている。
NYタイムズ A.O. スコットは、メインビジュアルは、1989年製作の映画『ドライビング Miss デイジー』との比較を促すようだと述べ、『手錠のまゝの脱獄』(The Defiant Ones)から小説「ハックルベリー・フィンの冒険」、「白鯨」、「モヒカン族の最後」などを挙げ、ドンとトニーの関係は、人種的な罪からアメリカを救う象徴的な異文化の組み合わせと述べた。さらに「今まで見たことがないものは、ほとんどない」として、「荒削り、見え透いており、怒り寸前だ。」と非難した。
Indiewire タンベイ・オベンソン(Tambay Obenson) は、シャーリの役柄について「白人をより良い人に変えることだけを目的に起用された”魔法の黒人”」と皮肉を述べた。
The Grapevine モニーク・ジャッジ(Monique Judge) は、「もう一つの白人救世主の映画」と述べた。
アカデミー理事会役員で、2010年の短編映画「Music for Prudence」で黒人監督として初のオスカーを受賞したロジャー・ロス・ウィリアムズ(Roger Ross Williams)氏は、「グリーンブックは、黒人の物語であり、白人がほとんどもしくは無関係の映画のためにそのレガシーと名前を盗用することは許容できない。我々はいつも自分たちの物語や歴史を盗まれ、白人のレンズを通して語られてきた。この映画は、ハリウッドの最新の事例だ。」と非難の声明を自身のフェイスブックに投稿した。

なお、グリーンブックとは、1930年代から1960年代に発行されたアフリカ系アメリカ人のための旅行ガイドブック「ニグロ・モータリスト・グリーン・ブック」(The Negro Motorist Green Book)の略称で、米南部における有色人種の公共施設の利用などを禁じたジム・クロウ法(Jim Crow laws)のもと、黒人が安全に利用出来るレストランや宿泊施設、ガソリン所などのリストが掲載されており、旅のバイブルとして使用された。

GreenBook
GreenBook via NYPL

批評家らは作品を非難したが、ハリウッドレポーターによると、多くのアカデミー会員は映画を評価している。
白人のジェフ・ブリッジスピーター・フォンダウィリアム・フリードキンロン・ハワードはツイッターで映画を支持した。
また、黒人のヘンリー・ルイス・ゲイツ(Henry Louis Gates)教授やジョン・シングルトン監督、ウィリー・ブラウン(Willie Brown)、ジャスティン・シミエン(Justin Simien)、マーティン・ルーサー・キング3世、シャーリーを直接知るクインシー・ジョーンズ(Quincy Jones)らも映画を評価している。

シャーリーの友人で、歌手、アクティビストのハリー・ベラフォンテ(Harry Belafonte)は、「映画は正確で、真実だ。皆が観るべき素晴らしい映画だ。」と称賛した。反対する人々の怒りの根拠は「アフリカ系アメリカ人でない誰かによって書かれた、または監督されたことによるものならば、さらに異を唱える。」と同誌にメールで回答した。

「白人救世主」という批判に対して、『グリーンブック』のエグゼクティブ・プロデューサー、オクタヴィア・スペンサー(Octavia Spencer)は、グリーンブックは実際にはニックの家族の物語としながらも、どの人種が特定の物語を語るべきというのは違うと思うと語っている。

キャストやスタッフの言動に相次ぎ非難

ヴィゴ・モーテンセンがNワードを発言

11月に開催されたプロモーションツアーでは、パネルディスカッションで、ヴィゴ・モーテンセンは1960年代の社会規範がどのように変化をしたかを示す時、黒人の蔑称、Nワードを使用した。すぐにマハーシャラ・アリに謝罪したが、この発言は多くのニュースに取り上げられた。

親類がシャーリー像について反論

ドン・シャーリーの親類は、12月発行のShadow and Actのインタビューで、ニックら製作陣が、製作のプロセスに家族を関わらせず、内容に誤りが数多く見られるとして「嘘のシンフォニー」だと非難した。シャーリーが家族やコミュニティから疎外されていたのは嘘で、2人の間柄は雇用関係だったと述べている。
製作スタッフと家族はその後和解しており、ゴールデングローブ賞の受賞を喜んだとハリウッドレポーターが報じた。

タイムは2人の関係について、実際のところは不明確としながらも、2011年公開のドキュメンタリー「Lost Bohemia」で、シャーリー自身が「ニックは単なる運転手、雇用者と従業員の関係ではなく、お互い友情を育んだ」と語っていると述べている。

シャーリーの友人マイケル・カッペイネ(Michael Kappeyne)は、1997年に彼に出会い、カーネギーの自宅でピアノのレッスンを受けていた。カッペイネは、2001年にシャーリー最後のアルバム「Home with Donald Shirley」をプロデュースしている。カッペイネはシャーリーから、ニックとの南部への旅に関して「白人の警察は、自分が白人のドライバーを雇っていて、ボスだということが気に入らなかった。」という話を何度も聞いたと述べ、この話は彼のお気に入りだったと語っている。

試写で友人らと映画を見た時、みんな大喜びだったという。シャーリーは複雑な男性で、アリは内なる怒りや、孤独感、彼が常に抱いていた尊厳などをよく捉えていたと語っている。まるで2時間の間、シャーリーが生き返ったかのようだったとカッペイネは感動を述べた。

ゴールデングローブ賞後、脚本家と監督が相次ぎ炎上

“Green Book” at the 76th Annual Golden Globe Awards ©Hollywood Foreign Press Association

『グリーンブック』は6日開催されたゴールデン・グローブ賞で、5部門にノミネートされ、コメディ/ミュージカル部門で作品賞と助演男優、脚本賞の3部門を獲得した。
しかし1月9日に脚本家のニック・ヴァッレロンガと監督のピーター・ファレリーに対して、人種差別主義やセクハラなどの問題が相次ぎ発覚した

脚本家のニック・ヴァッレロンガ氏が過去にツイッターで、イスラム教徒への差別的な発言を行なっていたことが明らかとなった。
問題のツイートは2015年11月に投稿されたもので、ヴァッレロンガ氏は「100%正しい。タワーが崩壊した時、ジャージーシティでイスラム教徒が歓声を上げていた。あなたと同様、私も見た。多分CBSのローカルニュースで。」と当時大統領候補だったドナルド・トランプ氏に向けて発信。トランプ氏の選挙キャンペーン演説における同様の主張を支持していた。

NYマガジンのThe Cutは、1998年のニューズウィークに掲載された記事を引用し、ピーター・ファレリー監督が、同僚やキャメロン・ディアスらにジョークでペニスを見せることを楽しんでいたことを報じた。
2人はともに謝罪を表明している。

現在も残る差別

黒人に対する差別主義的な言動や事件のニュースは、現在も絶えない。ナショナル・ジオグラフィックが公開した2015年のSTANFORD UNIVERSITY OPEN POLICING PROJECTのデータによると、24州のうち19州ではアフリカ系アメリカ人のドライバーは、白人に比べて警察による停止を求められる傾向にあるという。

昨年10月、米国で最も歴史のある人権団体、全米黒人地位向上協会(NAACP)は、人種差別の被害を受けるリスクが高いとして、ミズーリ州を旅行する人やアメリカン航空を利用する黒人に対して、旅行の自粛を呼び掛けた

昨年米スターバックスでは、昨年フィラデルフィアの店舗で起きた白人スタッフによる警察への黒人通報事件をきっかけに、全8,000店舗を休業し、人種の偏見に関する研修を実施した。

元NBA選手カリーム・アブドゥル=ジャバー(Kareem Abdul-Jabbar)氏は、ドキュメンタリーを製作しているのでない限り、映画監督は歴史の年代記編者ではなく、解釈する者であるべきだ。『グリーンブック』は歴史を解釈し、現在に関連する事実を明るみにしたとハリウッドレポーターの論説で作品への評価を述べている。

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