ニューヨークのエリック・アダムス市長は11日、「ドリル・ミュージック」(ヒップホップのサブジャンル)について、ソーシャルメディア各社に規制を求める意向を示した。

6日、18歳のラッパー、Chii Wvttz(本名 ジェイクアン・マッケンリー)が、ブルックリンのベッドスタイで車の中にいたところ、銃撃を受け死亡した。この約一週間前、同じくブルックリン出身のラッパー、Tdott Woo(本名 タジェイ・ドブソン)が、レーベルとの契約を結んだ直後、カナーシーにある自宅前で射殺された。2人ともブルックリンのドリルシーンで活躍が期待されていた。

アダムス市長は、息子を通じて、ドリル・ミュージックに関する音楽ビデオを視聴したとした上で、「警戒すべきものだ」と主張。ソーシャルメディア各社と面会を行い「市民および企業的責任」について話し合うと語った。

市長は続けて「われわれはトランプをツイッターから外した」と、支持者らが起こした議事堂襲撃事件後、SNS各社から利用を停止されたトランプ前大統領を引き合いに出し、「しかし、音楽で銃や暴力を誇示することを許可している」と制限するべきとの見解を示した。

元警察官のアダムス市長は、警官の増員や違法銃を取り締まる私服警官部隊の復活など、銃犯罪撲滅に向けた強化策を発表している。ニューヨーク市内の重大犯罪は、90年代に比べて低水準にあるとされているものの、増加傾向にあり、今年1月の重大犯罪件数は昨年同月比で38.5%増加したと伝えられている。

ドリル・ミュージックとは?

ABCニュースによると、ヒップホップのサブジャンルで、チーフ・キーフ(Chief Keef)やリル・ダーク(Lil Durk)、フレッド・サンタナ(Fredo Santana)、キング・ルイ(King Loui)、G・ハーボ(G Herbo)、リル・ビビー(Lil Bibby)、リル・リース( Lil Reese.)といったシカゴのラッパーの間で広がった。

サウスカロライナ大学で都市の若者文化を研究するジャバリ・エバンス教授によると、楽曲としては「チャントのコーラス」「ダークな匂い」「好戦的なドラムビート」が特徴だが、シカゴのギャング文化を起源とする「暴力的な歌詞」が、たびたび問題視されているという。

同氏によると、シカゴのサウスサイドで2010年代に、シカゴ版ギャングミュージックとして発展したもので、シカゴのストリートでは「ドリル」をすることは、犯罪に手を染めていることを意味するという。

ブルックリンのドリルシーンは、2020年に殺害されたPop Smoke(ポップ・スモーク)やFivio Foreign(ファイヴィオ・フォーリン)といったアーティストによって広がった。

エバンス教授は、ドリルジャンルはイギリスやウガンダなどの世界に広がり、歌詞やアーティストも多様化しているものの、暴力的なコノテーションは引き継がれていると指摘している。

悪者は音楽か?

ブルックリン地区のエリック・ゴンザレス検事局長は、FOX5の取材に「最近起きた多くの発砲事件は、ドリルと直接関係がある」と説明。「ドリルのラップビデオが、若者の命を奪っている」「報復の欲求を煽っている」と語った。

ゴンザレス氏によると、ドリルアーティストらは、ライバルギャングの縄張りに乗り込んで、SNSでライブ配信をするなどして、互いに挑発行為を繰り返しているという。

殺害されたChii WvttzやTdott Wooも、他のアーティスト同様にSNSで多くのフォロワーを獲得し、楽曲を発表していた。

一方、Fivio ForeignはTMZの取材に「音楽は、彼らにとって唯一の自己表現する芸術の形式で、一つのジャンルやコミュニティだけを非難するのはアンフェアだ」と指摘。「音楽が人々を殺しているのではない」と擁護した。

先述のエバンス教授も、ドリル・ミュージックがリアルの世界の暴力につながっているケースを認めつつ、アーティストには自己表現する権利があると主張。さらに「音楽ジャンルをもとにグループ全てをステレオタイプ化できない」「コミュニティの問題は、ドリル以前から存在していた」と述べるなど、音楽が安易にスケープゴートにされることに警戒感を示した。