ニューヨークの政治やアート、カルチャーなどの情報を発信する独立系のコミュニティ週刊紙「ビレッジボイス」(Village Voice)が、9月20日号を持って、プリント(紙)版の発行を廃止した。今後はデジタル版に移行し、62年に渡る紙媒体の歴史に幕を閉じる。

最終号では、若き日のボブ・ディラン(Bob Dylan)が表紙を飾った。写真は、スタッフフォトグラファー、故フレッド・マクダラー氏Fred McDarrahが、1965年にクリストファーパークで撮影したもの。

最終号は175ページの特大号で、過去の記事や写真、イラストの他、関係スタッフなどのポートレート写真とともに媒体の歴史を振り返る内容となっている。編集長のステファン・モアレム氏(Stephen Mooallem)はエディターズノートの中で、「”ボイス”に貢献してくださった多くの方に、この最後のプリント版を捧げたいと思います。」とメッセージを綴った。

ビレッジボイス プリント版廃止
©mashupNY
ビレッジボイス プリント版廃止
©mashupNY

The Villageと題するコーナーでは、有名人やニューヨークの歴史を捉えた写真を27ページにわたって掲載。ロバート・ケネディや、ジョン・レノンとオノ・ヨーコ、ロバータ・フラッグ、チャールズ・ミンガス、アンディ・ウォーホル、ジャック・ニコルソン、若き日のマドンナのほか、ビートニク詩人のジャック・ケルアックの朗読シーン、ストーンウォールインに集う人々や、ウーマンズマーチなどの様子を見ることができる。

ソーシャルメディアには、時代の終わりを惜しむメッセージが多く寄せられている。

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ビレッジボイスとは

ビレッジボイスは、1955年にエド・ファンチャー(Ed Fancher)、ダン・ウォルフ(Dan Wolf)、ノーマン・メイラー(Norman Mailer)がウエストヴィレッジで創刊したコミュニティー週刊紙で、10月26日に創刊号が発行された。
リベラルな視点から、ニューヨークの政治、国際問題、演劇や文学、映画などのアート・カルチャーまで幅広い分野をカバーする週刊紙は、「オルタナティブ・ウィークリー」(alternative weeklies)と呼ばれた。
同紙は、新聞報道や文学などに与えられる米国の権威ある賞、ピューリッツァー賞を3度受賞している。 ビレッジボイスの成功を機に、同紙をモデルとしたコミュニティー紙が米国の多くの地域で誕生した。

同紙は、ジャーナリストのジャック・ニューフィールド(Jack Newfield)や、ジェームズ・リッジウェイ(James Ridgeway)、ウェイン・バレット(Wayne Barrett)、音楽批評家の先駆者ともいえるロバート・クリストガウ(Robert Christgau)、レスター・バングス(Lester Bangs)、エレン・ウィリス(Ellen Willis)など優れたジャーナリストや批評家、作家を輩出してきた。
後にピューリッツァー賞を受賞したシアター批評家のヒルトン・アルス(Hilton Als)と小説家のコルソン・ホワイトヘッド(Colson Whitehead)などもビレッジボイスで活躍していた。

1956年よりオフブロードウェイシアターの功績を讃えるための「Obie Awards」を開催したり、毎年6月にはゲイパレード特集を発行し、LGBTQのコミュニティをサポートしたりするなど、ニューヨークのカルチャーシーンを支えてきた。

「タイムアウトニューヨーク(Time Out New York)」や、「ザ・ニューヨークプレス(The New York Press)などの情報誌の台頭により、発行部数を増やすため、1996年に無料化するが、次第に性的なエスコートサービスの広告収入に頼るようになる。(2015年以降、オーナーがピーター・バーベイ氏に変わってからは、エスコートサービス広告は排除され、再び発行部数を伸ばしていた。)
2005年 New Times Mediaが買収。
2015年10月 ペンシルベニアで新聞「 The Reading Eagle」を発行するBarbey家のピーター・バーベイ氏(Peter D. Barbey)がオーナーとなる。
2017年8月 プリント版を廃止すると発表。十数名の従業員を解雇するなど、リストラを行った。
2017年9月20日 プリント版の最終号を発行。