ドナルド・トランプ「スーパージーニアス」説の真相

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トランプ前大統領とメラニア夫人の息子、バロン君(15)が、フロリダ州パームビーチにある私立高校、オックスブリッジ・アカデミーに入学した。一家が居住する高級リゾート施設「マール・ア・ラーゴ」に近く、年間の学費は約3万5,000ドルの超セレブ校で、過去イェール大、ダートマス大などの名門校に卒業生を輩出しているという。

ところでトランプ氏自身は、学生時代どんな生徒だったのだろうか? 

トランプ氏は13歳から5年間、父親のフレッド氏の意向で全寮制のニューヨーク・ミリタリー・アカデミーに通って高校までの課程を修了し、ニューヨークにあるフォーダム大学に進学。2年後にアイビーリーグの一つでビジネスの名門、ペンシルベニア大学ウォートンスクールへ編入し、1968年に卒業した。

トランプ氏自身は高校や2年間通ったフォーダム大についてほとんど言及していない。しかしウォートンスクールの学歴については誇りに思っているようで、「世界一の難関で最高の大学」の同校出身である自分を「スーパージーニアス(超天才)」と称している。成績についても「トップだった」と再三にわたり公言している。

「首席で卒業」はハッタリか

1973年、ニューヨーク・タイムズは、当時はフレッド氏が経営していたトランプ・オーガニゼーションに関する記事を掲載し、入社5年目のトランプ氏についてウォートンスクールを「首席で卒業」と紹介している。ただ、これについてはトランプ氏自身や身内の発言をそのまま記事にした可能性が高い。同紙は後にトランプ氏の「トップだった」という主張を疑問視する別の記事を掲載している。

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雑誌「Philadelphia」によると、トランプ氏が卒業した1968年のウォートンスクールの記録には、成績優秀者を表彰する「Dean’s List」にトランプ氏の名前がないという。同誌はまた、卒業時に優秀な学生に贈られる称号(Honor)を授与されてもいないとしている。

さらにペンシルベニア大の学生新聞「the Daily Pennsylvanian」は、少なくともこの年の全卒業生366人中、56番以内には入っていなかったのは確実だとしており、「トップだった」という主張には無理がありそうだ。

なお、2006年から12年間トランプ氏の顧問弁護士を務めたマイケル・コーエン氏は、トランプ氏の指示で、同氏の成績表を外部に漏らさないよう出身校などに書簡を送ったことを議会で証言している。送り先はトランプ氏が通った高校と大学、さらには大学進学共通テストSATの運営団体「カレッジボード」まで含むという徹底ぶりだった。

目立たない生徒

次に周囲の評価について。大統領を輩出した学校ともなれば、通常は学校側にとっても良いアピール材料となりそうだが、ウォートンスクールはトランプ氏について沈黙を貫いている。政界やビジネス界の著名人が母校の卒業式でスピーチを行うのはアメリカでは通例だが、トランプ氏がウォートンスクールの卒業式に登場したことはなく、名誉学位も与えられていない。それどころか、同校はトランプ氏が在籍した事実について「1968年5月20日、不動産の理学士号(Bachelor of Science)を取得し卒業した」とコメントするのみで、それ以上の具体的なエピソードには一切触れていない。

ウォートンスクールで31年間教鞭をとり1982年に引退した経営学の元教授、ウィリアム・ケリー氏は、トランプ氏が履修した授業を受け持ったことがあり、当時の印象を友人に語ったことがある。それによると「ドナルド・トランプは私の生徒の中で最もバカで最低なやつだった。自分は何でも知っていると思い込み、横柄で学ぶ姿勢も皆無だった」と酷評していたという。

また、キャンパス内でのトランプ氏は決して目立った存在ではなかったようで、「the Daily Pennsylvanian」の調査によると、回答したトランプ氏の同期生74人のうち68人が校内でトランプ氏を見かけたことはないと答えている。学校のイヤーブック(年次アルバム)にもトランプ氏の写真がなく、むしろ陰の薄い存在だったことがうかがえる。

当時のトランプ氏を知る同校卒業生の一人で、不動産の授業で何度かトランプ氏と同じクラスになったというルイス・カロマリス氏は、ワシントンポスト紙の取材に対し、トランプ氏の学生時代について明かしている。それによると、トランプ氏は当時からニューヨーク随一の不動産王になる計画を語っていて、印象としては「頭は良い」と感じたものの「いつも怠けていて、読書もしなかった。バカだとは感じなかったが、日和見主義だと思った」としている。

いまほど難関校じゃなかった

そもそもウォートンスクールへの編入に関しても、トランプ氏の兄、フレッド・ジュニア氏が便宜を図ったことが分かっている。ワシントンポスト紙によると、当時フレッド・ジュニア氏は、ウォートンスクールの入学事務局で働いていた友人、ジェームズ・ノーラン氏に、弟を同校に入れてほしいと頼んでいた。ノーラン氏はトランプ氏の面接官を担当し、入学を推薦した。

ノーラン氏の推薦が合格の決め手になったかは不明だが、ノーラン氏によると、トランプ氏が入学した当時のウォートンスクールは、志願者の半数以上が合格していたという。今でこそ合格率5.68%の超難関校だが、10%を切ったのはここ数年のことで、1980年の時点でも合格率40%を超えていたという記録が残っている。

ちなみにトランプ氏を面接した印象として、ノーラン氏は「スーパージーニアスを目の当たりにした感覚は全くなかった」とコメントしている。

トランプ氏は2011年、当時大統領だったバラク・オバマ氏について、学生時代「ろくな生徒じゃなかった」「アイビーリーグ校に入れたはずがない」などと根拠なく批判し「成績表を公表すべきだ」と公に主張した。オバマ氏とトランプ氏は2人とも、1年生からではなく3年生からアイビーリーグに編入し、honorを授与されず卒業しているという共通点がある。

経済紙フォーブスの寄稿者、クリストファー・リム氏は、トランプ氏がオバマ氏を批判する背景にあるのは自己投影だと分析。自分と似た点のあるオバマ氏を標的にするのは、自分自身の欠点を見出しているからだと指摘している。

何十年も昔の学歴にトランプ氏が固執し「トップだった」と言い張るのは、むしろ自信のなさの裏返しなのかもしれない。

[ソース]