パワハラ報道のブロードウェイ大物プロデューサーが謝罪、退任へ

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職場での虐待行為やパワハラが報じられたブロードウェイの大物プロデューサー、スコット・ルーディン(Scott Rudin)氏(62)は17日、ワシントンポスト紙に送った声明で「製作から身を引く」と発表した。

ルーディン氏は、40年近いキャリアの中で「ブック・オブ・ モルモン」「ハロー・ドーリー!」「フェンス」などトニー賞受賞作17作品に加え、アカデミー賞の作品賞を獲得した映画「ノーカントリー」など数々のヒット作品を生み出したことで知られる。

ハリウッド・レポーターは7日、ルーディン氏から虐待行為を受けたスタッフの話など、悪質な職場環境を報じた。この後、SNSでは、アーティストに対してルーディン氏の作品への関与をやめるよう求める声が高まった。15日、トニー賞受賞女優のカレン・オリヴォ氏はインスタグラムに投稿した動画で「より良い業界を築くことが、自分の金を稼ぐよりも重要だ」と投稿。ルーディン氏に目をつむることは「許容できない」と述べ、秋に再開を予定しているミュージカル「ムーラン・ルージュ」に復帰しないと宣言した。(なおルーディン氏はムーラン・ルージュには関わっていない)

ルーディン氏は声明で「私の行動が、直接的および間接的に人々に与えた痛みについて深く謝罪する」と述べ「過去を振り返り、ブロードウェイ製作への”積極的な関与”から直ちに身を引くことを決断した」と語った。自身の役割については、ブロードウェイコミュニティ内の人物や、すでに公演に参加中の人々が引き継ぐと説明。自分の願いはブロードウェイの再開を成功させ、アーティストたちが再び輝くことだと述べ「自分の問題でブロードウェイの再開を妨げたり、ショーのために働く1,500人の復帰を邪魔したりしたくない」と語った。

なおルーディン氏の「積極的な関与」が何を指すのか、はっきりしていない。

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パワハラモンスター

ハリウッドレポーターによると、2012年のハロウィーンの日、売り切れのために飛行機の座席を予約できなかったアシスタントの男性に腹を立てたルーディン氏は、男性が手に持っていたアップルコンピューターのモニターを叩き割った。男性は流血し、すぐに緊急治療室に向かったという。

2018年にルーディン氏のプロダクションに加わったキャロライン・ルーゴ氏は、厳しい職場であることは覚悟していたが、ルーディン氏の脅迫行為は予想を超えていたと同紙に語った。ルーゴ氏は、ルーディン氏が会議室でラップトップを窓に投げつけるのを目撃。ルーディン氏は、その後キッチンに向かい、ペーパータオルのディスペンサーを叩いたという。このほかに、ガラスのボウルを同僚に投げつける場面にも居合わせた。ガラスは壁にぶつかり、破片が周りに飛び散ったという。さらに人事スタッフがパニックアタックを起こして救急車で運ばれたこともあった。ルーゴ氏は「彼がモンスターだってことは、周知の事実だ」と話した。

あるアシスタントの男性は2018年に、ルーディン氏が、配給会社の人物が来社することを知らなかったと憤慨し、ベイクドポテトをなげつけられたと話している。

2018年から2019年にエグゼクティブアシスタントだったライアン・ネルソン氏は、人々が不当な扱いをうける現場を数多く目撃した。ルーディン氏は、ある時劇場のアシスタントに向かってホッチキスを投げつけ、「バカ」などと罵っていたという。

このほか、あるアシスタントは、キッチンで壁に穴があくほど勢いよくティーカップを投げつけられたことがあったと明かしている。

ルーディン氏の悪評は長らく知られており、メディアにも報じられていた。ハリウッドレポーターは2010年に「街で最も恐れられた男」と題した記事を掲載。ルーディン氏の残酷な行為を記した。ウォールストリートジャーナルは2005年に「Boss-zilla!」とゴジラにかけた見出しを掲載した。ルーディン氏自身はこの時、過去5年間で119人のアシスタントが「燃え尽きた」と認めているという。

ルーディン氏の振る舞いは部下に伝播しており、ある人物は職場環境を、虐待を受けた補佐官らが「ボスの最悪の性質」を引き継いでいく「カルト教」のようだと述べている。

業界のパワハラ体質

ワシントンポスト紙は、ルーディン氏が引き下がることで、懲罰を求める声が収束するか不明だと指摘している。さらに業界の一部のメンバーは、ルーディン氏は「これまでたくさんいる虐待的な人物の1人に過ぎない」と述べ、ルーディン氏が身を引いたところで「何も変わらないだろう」と主張している。

あるプロデューサーは「この業界ではあらゆる地点に、このやり方が望む結果を得る方法だと教えられている人々がいる」と説明。「振る舞いが複製されている」と話した。

業界の労働組合アクターズ・エクイティは「ブロードウェイで真に安全でハラスメントのない職場を作る第一歩」は、ルーディン氏がスタッフらと結んでいる秘密保持契約書を解除することだと主張した。

「ムーラン・ルージュ」への復帰を拒否するとしたカレン・オリヴォ氏は、ルーディン氏の声明に対して「変更は理論上のものにすぎない」と批判。「変化だと叫ぶ前に行動と時間が必要だ」と述べ「ルーディンは倒すべきうちの1人にすぎない。もっとたくさんいる」と語った。

ブロードウェイ再開に尽力

ルーディン氏は2月、トライベッカ映画祭の共同創設者のジェーン・ローゼンタール氏とともに、ニューヨーク州のクオモ知事の命を受けて、州のアート・エンターテインメント復興のためのイニシアティブ「NY PopsUp」をスタートした。

ある関係者はワシントンポスト紙に、州高官とブロードウェイとの連絡を保ち、ワシントンの上級ロビイストを確保に尽力したほか、劇場の支援金を得るため、上院民主党トップのチャールズシューマー院内総務に働きかけるなどしてきたのは、主にルーディン氏だったと話した。結果、閉鎖した劇場などに対して161億ドル規模の支援金が提供されることとなった。

昨年、新型コロナウイルスによりブロードウェイの劇場が閉鎖された時点で、ルーディン氏のショーは「ブック・オブ・モルモン」と「アラバマ物語」「ウエストサイドストーリ」の3作品が上演されていた。今後は、ヒュー・ジャックマン主演の「ミュージック・マン」のリバイバル公演も予定している。

ネットフリックスは来月14日から、ルーディン氏が製作を務めたエイミー・アダムス主演のネットフリックス映画「ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ」の配信をしている。