ロシアがウクライナの侵攻を開始してから約半年。未だ戦争に終結の兆しが見えない中、ウクライナのゼレンスキー大統領はあらゆる手を尽くして国際社会に支援と協力を求め続けている。これに呼応する形で、知名度の高いハリウッドセレブが連帯を示そうと相次いで現地を訪問している。

戦争をブランディングに利用?

ゼレンスキー氏のテレグラム公式アカウントに先週、4枚の写真が投稿された。「ゼロ・ダーク・サーティ」などで知られるアカデミー賞受賞俳優ジェシカ・チャスティンがゼレンスキー氏とテーブルについて会談する様子や、2人が笑顔で肩を並べる2ショットなどを収めた写真で、「今日、米女優のジェシカ・チャスティンがウクライナに来てくれた」とコメントが添えられている。続けて「私たちにとって、有名人の訪問は大変貴重だ。世界が私たちの国で起きていることの真実をより深く聞き、知り、理解するきっかけになる」とある。

今年2月のウクライナ侵攻開始以来、ベン・スティラー、アンジェリーナ・ジョリー、ショーン・ペン、リーヴ・シュレイバーなどハリウッド俳優らがウクライナを訪れている。

中でも被災地支援団体「CORE」の共同創設者でもあるショーン・ペンの訪問は、メディアで大きく取り上げられた。ペンはドキュメンタリーの撮影のため2月のロシア軍の侵攻開始直前にウクライナに入り、侵攻の前日と当日にゼレンスキー氏と面会した。3月のCNNのインタビューでは、「勇気や尊厳、愛という意味において、この現代世界にとって何か新しいものを目の当たりにした」と述べ、「際限のない感銘を受け、心を動かされた。彼とウクライナ人に恐れをなした」と敬服を示した。一方、侵攻で「民主主義や、自由な夢の象徴が攻撃された」と非難。「夢を表す旗が頂上に立てられた崖から、真っ逆さまに落下していく」気分だと述べ、ウクライナへの全面的な支援が必要だと訴えた。

The Hillによると、こうしたセレブの活動に対して、称賛の一方で、批判や懸念を示す声が上がっている。

著書「Celebrity Humanitarianism: The Ideology of Global Charity(セレブの人道主義:グローバルチャリティーの思想)」の作者、イアン・カプール氏は同サイトの取材に「彼らが代表するのは彼ら自身でしかない。自分のブランドを築くために大衆の注目が必要でそれを求める存在」と指摘。「すべてがブランディング」であるとし、「彼らが行っていることは、非常に問題だ」と懸念を示した。

カプール氏はこの一方、ゼレンスキー氏に落ち度はないと主張。かつて俳優だったゼレンスキー氏には賢明さとメディアへの深い理解があるとした上で、立場がはるかに弱いウクライナが大国ロシアに抗う唯一の方法は、欧米諸国の継続した支援を求める圧力をかけ続けることだと語った。戦争が長期化し、大衆の関心が薄れつつある中、ゼレンスキー氏にとって、SNSや報道機関、「西洋のセレブ部隊」といった手段を利用するのは大変有効だとした。

ブルッキングス研究所の副所長で著書「Celebrity Politics(セレブの政治)」の作者、ダレル・ウエスト氏は、ゼレンスキー氏が著名人と公に面会し写真を公表するのは「メディアの注目を集める大変うまいやり方」としつつも、そのこと自体がウクライナの現状を変えるものにはならないと指摘。「セレブが専門家ではないことは誰もが知っている。例えば外交政策のような話題にセレブがコメントしても、まじめには受け止められない」と話した。

ウクライナ支援は「安全パイ」?

セレブにとってウクライナ支援は、ブランディングの観点からすれば、炎上リスクの少ない安全な題材なのかもしれない。

エコノミスト誌とYouGovによる最新の世論調査では、米国民の63%が、米国が行っているロシアへの制裁やウクライナへの支援について「正しい」または「強化すべき」と回答している。

ウエスト氏は、セレブが参加する政治的議論は、ウクライナやゼレンスキー氏の支援のような、すでに大半の支持が得られた「安全な話題」に集中しがちだと指摘。賛否が分かれる話題は大きな反発に合う可能性も高まるため、セレブからは距離を置かれる傾向があり、ウクライナへの連帯を示すという参加の仕方はセレブにとっても反論の出にくい都合のいい話題と語った。

ちなみにセレブが必ずしもウクライナまたは西側寄りとは限らない。ロックバンド「ピンクフロイド」の元メンバー、ロジャー・ウォーターズは先週、総額80億ドルにのぼる米政府のウクライナへの軍事支援に反発を示し、バイデン氏を「戦犯」と呼んで非難した。プーチン氏と親交が深い俳優スティーブン・セガールも、ロシア政府の主張に同調し、ウクライナ東部の刑務所空爆の責任はウクライナ側にあると述べる映像が、先週ロシアの国営テレビで放映された。

戦争が長期化する中、ウクライナ側がハリウッドセレブの知名度を借りて関心を引くことに、前出のカプール氏は、「ゼレンスキー氏は、死に物狂いであらゆる手を尽くさなければならない」と理解を示したうえで「しかし、セレブはそうではない」と指摘。セレブたちには、「裏方に回って」支えたり、信頼できる団体に匿名で寄付をしたりするやり方で支援する方法もあると提案し、セレブは立場をわきまえるべきで、そうでなければ本人は善意のつもりでも結果的に害が及ぶ可能性もあると、懸念を語った。