トランプ氏推薦のMAGA候補 勝利の影に民主党の企み?

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2日に行われたミシガン州第3選挙区の連邦下院議員を選ぶ共和党予備選では、トランプ前大統領の支持を受けたジョン・ギブズ氏が、現職のピーター・メイヤー議員を破り、11月の本選にコマを進めた。ギブズ氏は51.9%を獲得。得票差4,000票の僅差の勝利だった。

前回選挙で当選を果たしたメイヤー議員は中道派で、1月6日の議事堂襲撃事件後、トランプ氏の弾劾訴追を求める決議に賛成票を投じた共和党議員10人のうちの一人だった。

ギブズ氏は、トランプ政権時代、住宅都市開発省で要職を務めた。前回の大統領選の正当性を否定しており、結果は「数学的に不可能」などと主張している。2016年選挙では、ヒラリー・クリントンの選挙対策部長を務めたジョン・ポデスタ氏が悪魔礼拝をしているなど、陰謀論をツイッターで拡散したこともあった。過去には日本で宣教師をしていたこともあるという。

11月の選挙では、前回メイヤー氏に6ポイント差で敗退した民主党のヒラリー・ショルテン氏と対決する。NPRによると同選挙区は再編により、前回選挙よりも民主党に傾いているという。

民主党がMAGA候補をアシスト?

ギブズ氏の人気を押し上げたのは、トランプ氏の支持のみならず、民主党の介入があったという。

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政治サイトポリティコによると、7月中旬の段階でメイヤー氏が費やした資金は210万ドル、ギブズ氏の34万ドルに圧倒的な差をつけていたが、先月25日、民主党議会選挙運動委員会は、同選挙区で30秒CMの放送枠を購入。ギブズ氏にスポットを当てた内容を放送した。

CMでは「ジョン・ギブズはミシガン西部には保守的すぎる」「トランプ氏自らが議会に出馬するよう選んだ」「トランプ氏を最高の大統領と呼んでいる」「ドナルド・トランプと同じ政策を推進することを約束している」と、MAGA候補であることが強調されている。一見ネガティブキャンペーンにも聞こえるが、ポリティコは、CMはトランプ氏との結びつきが説得材料になる有権者を対象としたものであり、独自のCM展開ができなかったギブズ氏の知名度獲得につながったと指摘している。

Axiosによると、民主党がこのCM放送に用意した額は42万5,000ドルで、ギブズ氏のそれまでの活動資金を上回る。ちなみに、選挙運動委員の広報担当は同サイトの取材に、CMの目的について明らかにしなかったという。

ギブズ氏の例は、極右候補の選挙に民主党が介入する一例に過ぎず、アリゾナやメリーランド、ペンシルベニアでもトランプ氏の支持を受け、選挙不正説を唱える候補者らが、民主党による恩恵を被っているという。

民主党としては11月の選挙の勝利を容易にするための作戦だが、投票権の保護をはじめ民主主義の回復や強化を標榜する党の主張と矛盾するとして、批判する声も上がっている。

UCLAの法学部教授リチャード・ハーセン氏はワシントンポスト紙に、ギブズ氏のCMについて「皮肉であり、危険だ」と主張。「共和党のトランプ派が、選挙の公平性と清廉性に対する人々の信頼を損なうために多くのことをしていることは知られている」とした上で、「より簡単に勝てるからといってこれらの人々に喜んで賭けているのは、危険な火遊びだ」と語った。

このほかにも党内からは、これらの候補者が11月の選挙で勝利する危険を指摘する声や、本来民主党候補者の支援金として得た資金を、トランプ氏が支持する極右の対抗馬に費やすことに不快感を示す声が上がっている。

2020年大統領選で民主党の予備選に出馬したエイミー・クロブシャー上院議員(ミネソタ州)は、CNNのインタビューで、一連の民主党の戦略に意見を求められると、「私の選挙ではやらない。こういったことは一度もしたことがない」としつつ、「この手の振る舞いは両党にみられるもので、共和党も介入している」と指摘した。一方、放送するCMに責任を持たせる「より優れた選挙資金法を期待する」と、一定の規制が必要との見方を示唆した。