米情報当局 ロシア思想家の娘の暗殺 ウクライナによるとの考え、不透明性に不満も

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モスクワで8月、ロシアの極右思想家の娘ダリア・ドゥーギナ氏(29)が、自動車爆弾で死亡した。ウクライナはこれまで関与を否定しているが、米国の情報機関は、同国政府が攻撃を許可したと考えているという。ニューヨークタイムズが匿名の米当局者の話として伝えた。

事件があったのは8月20日。ドゥーギナ氏はフェスティバルから帰る途中で、父アレクサンドル・ドゥーギン氏の車を運転していた。ドゥーギン氏は別の車に乗車していた。爆破はドゥーギン氏を狙った可能性が指摘されている。

ロシア連邦保安庁は事件後、国営メディアを通じた声明で、犯行は「ウクライナ特殊サービス」が計画し、数週間にわたって監視活動をしていたウクライナ人女性によって実行されたと発表した。この女性は、犯行後、娘を連れてエストニアに逃れたとしている。

ワシントンポスト紙によると、ドゥーギン氏は、米国に対抗するユーラシア主義を唱え、ウクライナに関するプーチン政権の考えにも影響を与えたとされる。1997年に出版した600ページを超える著書「地政学の基礎」にはナ国粋主義理論が示され、ロシア軍や外交政策に関わるエリートの間で必読書とされていた。一方で、専門家がNPRに話したところでは、2000年代は、より影響力のあるイデオロギストがもてはやされ、ドゥーギン氏はかつての名声を失い、ロシア国内では取り上げられなくなっていた。プーチン大統領の盟友とされるが、プーチン氏がドゥーギン氏に言及したことはなく、二人が会ったことがあるかは不確かだという。ウクライナについては、国家として存在せず、西側が反ロシア戦略でつくりあげたとの考えを、初期の頃から唱えていた。

事件にウクライナが関与したという情報機関の評価は先週政府内で共有されたという。

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当局者は米国の関与を否定しており、作戦の実行を知らされていれば、反対しただろうと話している。ウクライナ政府内で作戦を承認した主体や、実行者に関する考えは明らかにしていない。

米国の当局者らは、ウクライナ側がロシア領土内での秘密計画について、透明性を欠いていることに不満を示しているという。

国防総省や米諜報機関は、戦地に関する機密情報を共有し、ロシア軍の指揮所や補給路、重要な標的の攻撃を助けているが、ウクライナ側は、米国に計画を常に明らかにしているわけではないという。

従来、作戦が漏洩する恐れから国家間での機密計画の話し合いは行われないが、米国当局者の一部は、政治的な暗殺などの危険な冒険主義は控えるべきだと主張している。

米国に対するウクライナ側の透明性は、今後さらに重要度を増す可能性がある。

CNNは3日、ウクライナは、米国から長距離ミサイル「ATACMS」の提供を受ける代わりに、標的リストなどの情報を完全かつ継続的に明らかにすることを提案していると伝えた。

ATACMSは最大射程300kmの誘導ミサイルで、米国がこれまで提供している「ハイマース」のランチャーから発射することができる。空域のほか、補給基地、司令所、地対地ミサイル、ロケットランチャーなど、ロシア軍の後方活動を破壊できることから、戦闘能力の大幅な向上となり、ゼレンスキー大統領はロシアの侵攻開始当初から提供を切望している。

ロシアは、長距離ミサイルの提供は「レッドライン」であり、米国を紛争の当事者にみなすと牽制している。米露の直接的な紛争に発展することを恐れているバイデン大統領は5月、「ロシアを攻撃できるロケットシステムをウクライナに送るつもりはない」と話すなど、提供に否定的な姿勢を示している。