水曜日, 8月 5, 2026
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トランプ政権、30社に出資 VC化する米政府

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2025年6月、日本製鉄によるUSスチール買収の条件として、米政府は「黄金株」を取得した。国家安全保障を理由に重要事項への拒否権を持つこの措置は、当時異例の政治介入と受け止められたが、それは例外ではなかった。新しい投資モデルの第一号案件だった。

この13か月で、米政府は少なくとも30社の民間企業に対し、株式やワラント、優先株、転換権など何らかの持分を取得、あるいは取得を提案している。

対象は鉄鋼だけではない。量子コンピューティング、半導体、原子力、レアアース、ロケットモーター、先端材料──米国が「次の産業基盤」と位置付けるディープテック企業へと急速に広がっている。まさに米政府自身が、世界最大級のディープテックVCになろうとしている。

全30社の一覧はこちら

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「個別支援」から「投資ポートフォリオ」へ

変化は、案件数の推移に現れている。

期間, 件数, 特徴
2025年6月〜2026年1月, 13件, USスチール、Intelなど大型案件を個別交渉
2026年2〜4月, 0件, 空白期間
2026年5〜7月, 17件, 量子・半導体企業を一括採択

最初の8か月で13件。その後3か月間は発表が止まり、直近3か月で17件が一気に公表された。その変化を象徴するのが、商務省が2026年から公式発表で使い始めた「Portfolio Approach(ポートフォリオ・アプローチ)」という言葉だ。政府自身が、企業支援ではなく「投資ポートフォリオ」を組むという考え方を前面に打ち出し始めている。

政府が株主になる論理

では、政権自身はこれをどう正当化しているのか。Intelへの出資が明らかになった直後の2025年8月26日、ハワード・ラトニック商務長官はCNBCのインタビューで、「政府が企業に根本的な価値を付加しているなら、持分を持つのは公正だ」と述べ、防衛企業への出資も検討していると明言した。その後、国防総省は実際にミサイル事業や重要鉱物企業への資本参加を進めており、構想が着実に実行に移されている。

2025年8月 — ラトニック長官、防衛・弾薬企業への出資を「検討中」と発言
2025年11月 — 国防総省がVulcan Elementsに6億2,000万ドルの条件付き融資とワラント、ReElement Technologiesに8,000万ドルの条件付き融資とワラント
2026年1月 — 国防総省がL3Harrisのミサイルソリューションズ部門に10億ドルの転換優先証券を取得。IPO時に普通株へ転換される建て付け
現在 — 上院版の国防授権法(NDAA)が、国防総省に株式ポートフォリオを持たせる規定を含む

a16zの2倍を、一つの部局が

「世界最大級」は誇張ではない。商務省のCHIPS研究開発室が2025年12月以降に発表した出資条件付きの案件は、19件・最大38億ドルにのぼる。すべてに何らかの持分取得が紐づいている。

この分野で最も著名な民間ファンド、a16z(アンドリーセン・ホロウィッツ)が2026年1月に組成した「American Dynamism Fund II」は11億7,600万ドル。防衛、製造、供給網といった国家の基盤産業に投資することを掲げた、まさに同じ領域のファンドだが、1号ファンドと合わせても17億7,600万ドルである。

商務省の一部局が8か月間に積み上げた案件は、その約2倍。ファンドの運用総額と個別案件の上限額を単純に並べることはできない。それでも、桁が一つ違うわけではないという事実は重い。国家がこの分野で、最大級の民間プレーヤーを規模で上回る主体になりつつある。

投資先は巨大企業からスタートアップへ

初期の案件はIntelやUSスチール、MP Materialsなど、国家戦略上重要な大型企業が中心だった。しかし現在では、実証段階のスタートアップまで対象が広がっている。

7月に発表された案件には、

  • 熱力学コンピューティングを目指すExtropic(7,500万ドル)
  • 半導体の偽造品検知技術を開発するOBSIDIA Semiconductors(3,400万ドル)
  • 光インターコネクト向け基板技術を手がけるAeluma(3,000万ドル)

などが含まれる。

ExtropicもOBSIDIAも未上場で、量産実績はない。Aelumaはナスダック上場の小型企業だが、やはり事業規模は限られる。投資額もIntelの89億ドル規模から、3,000万〜1億ドル規模へと小口化している。国家の基幹産業を支える投資から、有望な技術に早期出資するベンチャーキャピタル型へと性格が変化している。

量子9社中6社に、同額の1億ドル

2026年5月に発表された量子コンピューティング企業への投資も、この性格を物語っている。

Atom Computing、D-Wave、Infleqtion、PsiQuantum、Quantinuum、Rigettiなど9社に対し、総額20億ドル規模の出資条件付きLOI(意向表明書)が提示された。

このうち6社は、いずれも1億ドルという同額だった。個別交渉を積み重ねたというより、共通のテンプレートを適用した印象が強い。VCが複数企業へ同時投資するように、政府も一つの技術分野全体へ資本を配分し始めている。

ただし、その多くはまだ「提案」

しかしながら、30件のすべてが確定した保有ではない。初期の大型案件──USスチールの黄金株、Intelの89億ドル(9.9%)、MP Materialsの優先株とワラント、L3Harrisの転換優先証券など──は、すでに手続きを完了している。

一方、直近の量子・半導体案件の多くは、まだLOI段階にある。Cato Instituteの整理によれば、CHIPS研究開発室が発表した19件のうち、最終合意に至っているのは3件のみ。残る16件は法的拘束力を持たない意向表明書だ。実際、5月に1億ドルのLOIを公表したRigettiの提出書類には、「確定的な取引契約の締結に向けて誠実に交渉することに合意した」とある。株式はまだ1株も発行されていない。

つまり現状は、確定した大型案件の上に、提案段階の小口案件が急速に積み上がっているという構図だ。裏を返せば、確定分だけでもすでに相当の規模がある。そこに38億ドル規模の案件が控えている。

かつての政府出資は、危機対応

政府が企業の株式を持つこと自体に、前例がないわけではない。

1930年代、復興金融公社は取り付け騒ぎを止めるため銀行の優先株を取得した。1979年には経営難のクライスラーに対する政府支援の見返りとしてワラントを受け取った。9.11後には航空業界の安定化のため融資とワラントを組み合わせ、2008〜09年の金融危機では金融機関と自動車メーカーに資本を注入して優先株やワラント、普通株を取得した。コロナ禍でも再び、航空会社からワラントを受け取っている。

だが、それらはいずれも危機対応だった。緊急事態が存在し、介入は一時的なものとして設計されていた。

今回は異なり、差し迫った危機はなく、出口も定められていない。

Intelの条件は象徴的である。政府は5年間のワラントを取得しているが、その行使条件は「Intelがファウンドリ事業の51%以上を保有しなくなった場合」となっている。つまりこのワラントは、同社が製造事業から撤退することを抑止するための仕掛けである。一時的な支援ではなく、企業の長期的な事業構造を固定する装置として設計されている。

「規制当局であり株主 政府の『4つの顔』

政府が株主になることで、新たな問題も生まれる。

同じ企業に対して政府は、

  1. 規制当局
  2. 最大顧客
  3. 補助金・融資の提供者
  4. 株主

という四つの立場を同時に持つことになる。輸出規制、政府契約、追加支援──その判断のすべてが、自ら保有する持分の価値に影響する。

これは仮定の話ではない。USスチールの黄金株は、取得から数か月で実際に行使された。同社がイリノイ州グラニットシティ工場の11月停止を発表し、停止後も従業員への賃金支払いは続ける方針だったが、政権は操業停止を認めず、黄金株の権限を使って計画を撤回させた。

こうした動きは、一部で「国家資本主義」「企業国家主義」と呼ばれ、警戒する声が上がっている。リバタリアン系シンクタンクのCato Instituteの政策アナリストは、政治による所有は企業の意思決定を歪める危険性に加え、勝者と敗者の選別が競争を阻害し、投資対象であるはずの産業そのものの弱体化を招くと指摘。さらに、企業が経営難に陥れば救済のインセンティブが働く。「問題の発生」と「さらなる介入」という悪循環が、あらかじめ組み込まれているとも主張している。

日本企業にも無関係ではない

この流れは、日本企業にも及び始めている。出発点となった日本製鉄・USスチール案件では、米政府が黄金株を取得した。そしてその拒否権は、前述のとおり、すでに現実の操業判断に対して行使されている。

さらに7月には、味の素グループが世界シェアの大半を握るパッケージ基板用の絶縁材「ABF」に対抗する米スタートアップにも、出資条件付きの支援が示された。政府は単に国内企業を守るだけではなく、戦略サプライチェーンそのものへ株主として関与し始めている。

対米投資や補助金申請において、「政府が資本参加する」という前提は、もはや例外ではなく標準シナリオとして考える必要があるのかもしれない。

「黄金株」は始まり

個別介入ではなく、制度。補助金ではなく、資本参加。そして政府は、国家安全保障政策を進めるだけでなく、自らディープテック企業のポートフォリオを組む主体へと変わりつつある。

そしてこの構図は政権交代後も存続する可能性がある。

Intelへの出資が報じられた2025年8月、共和党のランド・ポール上院議員(ケンタッキー州)はPoliticoに寄せた声明でこう述べている。

「今日はIntelだが、明日には、将来の商務長官が支配しようと決めたどの産業にもなりうる。保守派がいまこれを容認すれば、民主党に対して、民間部門への政府所有を拡大する青写真を手渡すことになる。社会主義とは文字通り、生産手段を政府が支配することだ」。

2022年のCHIPS法の審議で、エリザベス・ウォーレン(民主党)とバーニー・サンダース(無所属)両上院議員は、補助金を受ける企業の株式を政府が取得できるようにする修正案を提出していた。修正案は棚上げされたが、その3年後、トランプ政権はまさにその補助金を使ってIntelの筆頭株主になった。