ワシントンの株取引というと、数百万ドル規模の派手な売買がニュースになりがちだ。しかし、STOCK法の開示データを追うと、民主・共和を問わず複数の議員が、$1,001~$50,000程度の比較的小口の取引を時間をかけて繰り返している銘柄が浮かび上がる。マイクロン、AMD、シティグループ、ユナイテッドヘルス、TSMC──いずれも取引額は大きくない。しかし、これらの銘柄をたどってみると委員会の所管、政府契約、企業献金、大統領自身の売買など、ワシントンと企業を結ぶさまざまな接点も見えてくる。地味な積み増しには、ワシントンがどの産業や企業に関心を寄せているのか、その一端が映し出されているのかもしれない。
マイクロン・テクノロジー(MU)
民主党議員による買いが目立ったのが、半導体メモリ大手のマイクロンだ。2月に下院のクレオ・フィールズ議員が$100,001~$250,000を購入したのを皮切りに、上院のジョン・フェッターマン議員が3月30日に最小区分の$1,001~$15,000、下院のジョシュ・ゴットハイマー議員が5月21日に同じく$1,001~$15,000を買い増した。
フェッターマン議員は上院商務・科学・運輸委員会に所属し、CHIPS法を含む半導体政策を所管する立場にある。直接の利害関係を示すものではないが、政策議論の中枢に近い議員による取引として注目される。
結果として、このタイミングは絶妙だった。マイクロン株は年初来で270%超上昇し、時価総額は1兆ドルを突破。AI向けメモリ需要の拡大に加え、6月にはAnthropicとの戦略提携も発表された。広島に主力工場を持つ同社は、日本の半導体サプライチェーンとも深く結び付いている。
同じ時期にはトランプ大統領も3月だけで6回にわたりマイクロン株を購入していた。開示された金額帯は$1,001~$250,000と議員の取引レンジとも重なる。さらに5月末にはニューヨークで「マイクロンは素晴らしい企業だ」と発言し、市場の注目を集めた。
アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)
AMDも党派を超えて買いが続いた。ジュリア・レトロー議員(共和党)が2月2日に$1,001~$15,000、翌日にはクレオ・フィールズ議員(民主党)が約$50,000規模、5月にはジョシュ・ゴットハイマー議員(民主党)が$1,001~$15,000を購入している。AI半導体需要への期待を背景に、株価は年初来約160%上昇している。
レトロー議員が所属する歳出委員会は、CHIPS法関連予算を含む連邦予算配分を所管しており、半導体産業への政府資金の流れに直接関わる立場にある。また、ゴットハイマー議員が所属する情報特別委員会も、AI半導体の対中輸出規制という重要テーマと無関係ではない。
一方、トランプ大統領はAMDでは買い一辺倒ではなく、売買を繰り返してポジションを調整していた。3月にはCEOのリサ・スーが大統領科学技術諮問委員会(PCAST)の初期メンバーに選ばれ、政権との距離も縮まっている。
シティグループ(C)
金融株ではシティグループが目立った。ジョナサン・ジャクソン議員(民主党)は1月30日から2月11日にかけて4回連続で買い増し。さらに3月にはマリア・エルビラ・サラザール議員(共和党)が2回に分けて購入した。年初来の株価上昇率は約15%と、大手銀行の中では最も堅調なパフォーマンスとなっている。
特に注目されるのはサラザール議員だ。所属する下院金融サービス委員会は銀行規制を所管しており、その監督対象企業の株式を買い増していたことになる。
トランプ大統領も3月に複数回購入しているほか、6月には公の場でシティグループを名指しで称賛し、市場の注目を集めた。
さらに政治との接点も広い。2026年第1四半期だけでPAC・企業献金は9件、総額13万ドルに達し、共和・民主両党の選挙委員会へ幅広く資金を提供している。議員取引、委員会所管、大統領の発言、政治献金という複数の接点が重なっている点は、この銘柄の特徴と言える。
ユナイテッドヘルス・グループ(UNH)
5銘柄の中で最も値動きが激しかったのがユナイテッドヘルスだ。1月27日の決算で10年ぶりの減収見通しを示し、株価は1日で約20%急落。3月末には270.59ドルまで下落した。その後はメディケア・アドバンテージの料率改善期待などを背景に持ち直し、6月には425ドル前後まで回復している。
議員の買いは、この混乱の最中に集中していた。ジョシュ・ゴットハイマー議員(民主党)が2月5日、リチャード・マコーミック議員(共和党)が3月19日、Maria Elvira Salazar議員(共和党)が4月22日と、3人とも最小区分で買い増している。
3人とも医療保険政策を直接所管する委員会には所属していない。強いて言えば、マコーミック議員が所属する監視政府改革委員会は、UNHを巡るDOJの医療詐欺調査のような案件を扱う立場にあるが、関連は間接的だ。
対照的だったのはトランプ大統領の動きである。小口の購入を繰り返す一方、2月10日には100万~500万ドル規模という巨額の売却を実施していた。議員たちが静かに買い増していた局面で、大統領は大きくポジションを縮小していたことになる。
一方、同社は公的医療制度の運営や連邦政府向け医療サービスなどを通じ、政府との関係が極めて深い。直近では子会社OptumInsightがFCCの僻地医療基金プログラムから63万3,151ドルの支払いを受けている。
台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング(TSMC)
最後は再び半導体関連だ。クレオ・フィールズ議員(民主党)は1月8日に$1,001~$15,000を、リチャード・W・アレン議員(共和党)は2月19日と5月8日に、それぞれ同額を買い増した。5銘柄の中で最も取引額は小さく、3件合計でも4万5,000ドルに届かない。
一方で、この5銘柄の中では唯一、買った議員の所属委員会との明確な重なりが見当たらなかった。それでもTSMCは米中対立と半導体サプライチェーンの中心に位置する企業であり、5月売上高は前年同月比30.1%増と好調を維持。株価も52週高値圏で推移している。
東京エレクトロンやアドバンテストなど、日本の半導体製造装置メーカーにとっても最大級の顧客であり、同社への政策的な追い風は日本企業にも波及する可能性がある。
また、1月の半導体関税を巡る政策では、米国内への投資を拡大する台湾企業への配慮もみられた。地政学リスクと政策支援が交錯する中でも、市場は引き続き同社の業績に注目している。
STOCK法は議員の株取引について、1,000ドルを超える取引を45日以内に開示することを義務づけている。こうした情報から確かな理由を見出すことは不可能だが、ワシントンがどちらに向いているのか、方向を示す可能性があるものとして、ますます注目を集めている。
議員の個別の株取引動向はcapitolowl.comで追跡中。

