9月8日から10日にかけてワシントンD.C.で開催された「Emerging Technologies for Defense Conference & Exhibition」で、米国防総省のマイケル・ダッド重要技術担当次官補が、陸軍で先行するレーザー兵器の実装を進め、他軍種にも同様の移行を促す意向を示した。
Defense Scoopによると、ダッド氏は、ドローン群による飽和攻撃への対処コストが「完全に持続不可能」な水準に達していると指摘。「陸軍は既に移行を約束している。他の軍種にも同じことをさせるつもりだ」と述べた。
「1000ドルのドローンを数百万ドルで撃墜」
背景には、イランをめぐる軍事作戦で改めて浮き彫りになった「迎撃コストの非対称性」がある。
ダッド氏は、米軍が「1000ドルの使い捨てドローンを、数百万ドルのシステムで撃墜している」と説明した。ドローン攻撃に対する防空手段として高価な迎撃ミサイルを使い続ければ、攻撃側よりも防御側の負担が大きくなる。
同氏によれば、指向性エネルギー兵器に必要な技術自体はすでに存在している。現在もコストが高止まりしているのは、システムがまだ十分な規模で生産されていないためだという。国防総省の担当部門が研究開発や予算配分を支える一方、数十から数百単位で調達し、量産効果を生み出すのは各軍種の役割になる。
ダッド氏は、他軍種にも導入を促す考えを示し、有無を言わさず追随させるといった趣旨の発言で、働きかけを強める姿勢をにじませた。
実証から量産へ、動き出した契約
ダッド氏の発言を裏付けるように、指向性エネルギー兵器の調達は2026年に入り、具体的に動き始めている。
7月9日、国防総省はJoint Laser Weapon System(JLWS)のOther Transaction Authority(OTA)契約を、nLIGHT DefenseとLockheed Martin Aculightに付与した。契約額は初期段階で8,600万ドル、上限は8億4,700万ドル。次世代の巡航ミサイルおよび無人航空機システム(UAS)に対する防衛アーキテクチャーの構築が目的だ。
初期プロトタイプは約150kW級とされ、その後、巡航ミサイル防衛を想定した300~500kW級へ段階的に拡張される計画だ。コンテナ型の構成により、地上および艦艇への統合、各地域の統合軍への展開を想定している。
nLIGHTの発表によると、同社の契約分は初期段階で約4,400万ドル、上限で6億2,700万ドルとなる。同社は、High Energy Laser Scaling Initiative(HELSI)で300kW級レーザーを、陸軍のDE M-SHORADプログラムで50kW級レーザーを納入した実績を持つ。今回のJLWSは、こうした高出力レーザー開発の延長線上にある。
nLIGHTは、指向性エネルギー製品群を「HADES」ブランドで展開しており、早ければ2028年には運用システムの実証を計画している。
Lockheed Martinの担当領域は、コンテナに収めた500kW級レーザー兵器システムだ。同社は自社発表で、「史上最高出力のレーザーを可搬型コンテナに収めた」と説明している。契約金額は公表していないが、15年以上にわたる指向性エネルギー分野への投資と、2008年に買収したAculightの技術的蓄積を強調している。
JLWSに続き、およそ2カ月後の9月初旬には、陸軍がAeroVironmentに対し、Enduring-High Energy Laser(E-HEL)プログラムの生産契約を付与した。契約額は4億6,480万ドルで、同社はこれを米国史上初の指向性エネルギーシステムの量産契約と位置付けている。
AeroVironmentによると、「LOCUST X3」と呼ばれる第3世代システムは、20~35kW超まで拡張可能で、グループ1~3の無人航空機システムなどを対象とする。同社は、1回の交戦コスト5ドル未満を掲げ、AIを使った探知・追尾・交戦の自動化ソフトウェア「AV_Halo PINPOINT」と組み合わせている。
LOCUST X3はホワイトサンズ・ミサイル実験場での試験を経ており、AeroVironmentのレーザーシステムは、FAAとの国内運用に関する安全協定にもつながっている。
調達拡大は企業業績に直結するのか
ただし、レーザー防空に関する契約が拡大したからといって、関連企業の売上高や株価が直ちに上昇するとは限らない。JLWSの契約には将来の量産オプションが含まれるものの、契約上限額の全額がすぐに売上として計上されるわけではない。試作機の納入、性能評価、軍種別の正式発注、量産移行という段階を経て、企業業績への寄与が明確になる。
JLWSの契約企業であるnLIGHTは、2026年第2四半期に売上高8,260万ドルを記録し、前年同期比で34%増となった。A&D製品売上は過去最高を更新し、指向性エネルギー分野の需要拡大を追い風にしている。
一方で、同社はサプライチェーン上の制約にも直面した。約1,700万ドル分の製品出荷が、当初予定していた第3四半期から第4四半期以降にずれ込む見通しとなり、決算発表後には株価が下落した。需要が強くても、部品調達や生産能力が追いつかなければ、短期的には売上計上が遅れることを示している。
今回のJLWS契約でnLIGHTに割り当てられた上限額も、将来の発注を含む最大値であり、現時点で全額の売上が確定しているわけではない。実際の収益寄与は、試作機の納入、性能評価、軍種別の発注、量産移行の進捗に左右される。
AeroVironmentは、2026会計年度に19億7,680万ドルの売上高を計上し、前年比141%増となった。同社の宇宙・サイバー・指向性エネルギー部門の2026年度第4四半期の売上高は1億4,920万ドルで、全体の約23%(4分の1)を占め、自律システム部門と並ぶ成長分野になっている。
9月に発表された4億6,480万ドルのE-HEL生産契約は、同社の指向性エネルギー事業を、試作中心の段階から、より明確な量産・納入段階へ押し上げる可能性がある。ただし、契約額がそのまま当期売上になるとは限らない。納入時期、政府側の予算執行、追加発注の有無によって、実際の業績への寄与は複数の会計期間に分かれる可能性がある。
レーザー兵器がAeroVironmentの主要な収益源になるかを判断するには、今後の納入実績に加え、E-HEL以外の自律システム事業を含めた部門構成の推移を見る必要がある。
一方、Lockheed MartinにとってJLWSは、技術面では重要でも、短期的な業績を大きく左右する規模の契約とは言いにくい。同社は契約金額を公表しておらず、契約発表日に株価が大きく上昇することもなかった。
受注残高が大きい総合防衛企業にとって、今回の契約は会社全体の業績を直ちに変える大型案件というより、巡航ミサイルやUAS防衛におけるレーザー技術の実装実績を積み上げる案件と見る方が自然だろう。既存のミサイル防衛事業を補完する技術領域として、将来のポートフォリオに組み込む意味合いが大きいと考えられる。
「撃てるか」から「大量に作れるか」へ。
ダッド氏は陸軍について、「2年以内の本移行」という具体的なタイムラインにも言及した。AeroVironmentの契約が対ドローンに特化した個別プログラムの延長線上にあるのに対し、JLWSは巡航ミサイル防衛まで射程に入れ、複数軍種への展開を前提としている。
指向性エネルギー兵器は、単発の実証プログラムから、実装と軍種横断展開を見据えた調達プログラムへ移行しつつある。ただし、高官の号令を実現する鍵は、技術の成立だけではない。
数十から数百単位でシステムを生産し、電力・冷却装置・光学部品・制御ソフトウェアを安定供給できる体制を構築できるか。これから問われるのは、「大量に作って、安く配備できるか」になる。






