水曜日, 9月 9, 2026
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米政府、量子5社と「本契約」:拡大するトランプ政権の株式取得

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Abstract visualization of quantum computing
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量子コンピューティング関連企業5社が、米商務省との間で、量子コンピューティング分野の研究開発を支援する資金提供について「definitive agreement(確定的な取引契約)」を締結したとそれぞれ発表した。量子情報技術において主導的地位の確立を目指す政権方針を反映した取り組みであるとともに、研究開発資金の提供と引き換えに、米政府が企業の株式を取得するという枠組みが着実に実行に移されていることを意味する。

発表したのは、D-Wave Quantum、Rigetti Computing、Quantinuum、PsiQuantum、GlobalFoundriesの5社。米商務省は今年5月、これら5社を含む量子関連9社との間で、総額20億ドルの支援に関する意向表明書(LOI)を締結したと発表していた。

企業金額役割
IBM最大10億ドル量子ファウンドリ子会社「Anderon」の設立
GlobalFoundries最大3億7,500万ドル量子チップの受託製造基盤
D-Wave、Rigetti、Atom Computing、Infleqtion、PsiQuantum、Quantinuum各最大1億ドル量子コンピュータ本体の開発
Diraq最大3,800万ドルシリコンスピン方式の開発

4社(IBM(Anderon)、Atom Computing、Infleqtion、Diraq)については、最終契約の締結が現時点で確認されていない。

各社概要・資金使途(発表資料より)

5社はいずれも「CHIPS法に基づく研究開発助成金(R&D grant)の受給条件として、米国商務省が少数株式(non-controlling equity stake)を取得する」という共通の条件を明記しているが、担っている役割は一様ではない。

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D-Wave Quantum(最大1億ドル)
アニーリング方式とゲート方式の両方を手掛ける、業界で唯一の企業と自称する。今回の資金は、10万キュビット規模のアニーリング機と、1万キュビット・100論理キュビット規模のゲート方式機の開発に充てるとしている。最適化やAI、創薬などへの応用を見据える。

Rigetti Computing(最大1億ドル)
超伝導方式を採用。発表では、実用規模の量子コンピュータに向けたスケーリング上のボトルネック解消を目的に、①読み出し電子回路の小型集積化、②極低温冷却能力の桁違いの拡大、③高接続チップアーキテクチャの製造能力開発、の3プロジェクトに取り組むとしている。

Quantinuum(最大1億ドル)
イオントラップ方式を採用する唯一の採択企業。資金はサプライチェーンの強化・多様化に向けた研究開発に充てられるとし、国内(オンショア)の新たなパートナーとしてGlobalFoundriesとMonarch Quantumを挙げている。GlobalFoundriesは300mmウェハ技術を用いて次世代のイオントラップやその他の電子部品を製造する複数のファウンドリの一つとして起用され、Monarch Quantumはトラップイオン方式のシステムに必要な、拡張可能で信頼性の高いレーザー・光学部品の開発・製造を担うとされている。同社は2026年6月にナスダックへ新規上場したばかりで、調達額は18億6,800万ドルにのぼる。

PsiQuantum(最大1億ドル、非上場)
シリコンフォトニクス方式を採用。連邦資金と同社自身の共同出資を組み合わせ、シリコンフォトニクス・プラットフォームを支える重要部品──高性能な光スイッチ、高温動作の単一光子検出器、先端パッケージング技術──の研究開発・国内製造能力・性能を加速させるとしている。同社はGlobalFoundriesとの製造提携を2019年から続けており、2025年には約2億ドルを米国38州のサプライヤーに投資したとアピールしている。DARPAの量子ベンチマーキング構想(2022年開始、2026年7月に1億2,500万ドルへ拡大)とも接続する案件だ。

GlobalFoundries(最大3億7,500万ドル)
他の4社と異なり、量子コンピュータを開発する側ではなく、量子チップの受託製造(ファウンドリ)を担う立場にある。今回の資金は同社の「Quantum Technology Solutions(QTS)」事業の拡大に充てられ、極低温CMOS技術や先端パッケージング、異種チップ統合の能力を強化し、量子コンピュータ企業を「研究・試作段階」から「商用規模生産」へ橋渡しする役割を担う。 同社は同時期に、シリコンフォトニクス分野でも別途3億ドルのLOI(まだ本契約ではない)を商務省と結んでおり、量子とフォトニクスの両輪でCHIPS資金を獲得している。

市場の反応

発表を受け、上場企業の株価は上昇した。Rigetti(RGTI)は前日比+4.01%高の15.81ドル、D-Wave(QBTS)は+6.57%高の17.67ドル、Quantinuum(QNT)は+1.65%高の50.47ドルで取引を終えた。一方、量子セクター全体を対象とするDefiance Quantum ETF(QTUM)は+0.69%高の148.91ドルにとどまり、セクター全体への広がりは限定的だった。

この反応は、5月のLOI発表直後(D-Wave +17.5%、Rigetti +15.5%、IBM +6.6%)と比べると小幅だ。今回の「本契約化」というニュースは、5月の時点である程度織り込まれていたとみられる。

対照的なのがGlobalFoundries(GFS)だ。発表当日の9月8日、株価は45.09ドルで終値、前日比-0.27%とほぼ無反応だった。むしろ発表前の9月2日(43.97ドル)から9月4日(45.21ドル、+1.53%)にかけて株価はすでに上昇しており、本契約締結のニュース自体は材料視されなかったとみられる。時価総額の大きい総合半導体ファウンドリであるGFSにとって、3億7,500万ドルという金額はD-WaveやRigettiのような量子専業の小型株ほどインパクトを持たなかった、という解釈ができる。

トランプ政権 量子イノベーション戦略

今回の本契約化は、トランプ大統領が2026年6月22日に署名した大統領令「Ushering in the Next Frontier of Quantum Innovation」(量子イノベーションの次の国境線への突入、EO 14413)とも軌を一にする。

同大統領令は、量子情報技術において米国が戦略的な技術的優位性を維持し、研究、製造、商業化、および応用にわたる強固かつ信頼できる量子エコシステムの構築を主導することを確保すると宣言。実用規模の量子コンピュータを最低1台、エネルギー省の施設に納入し、科学コミュニティに広く提供することを目指すとし、技術仕様は署名から90日以内、民間企業とのパートナーシップモデルの検討は180日以内に行うとされた。ホワイトハウス科学技術政策局長のマイケル・クラッシオス氏は「科学研究に十分な能力を持つ初の量子コンピュータ開発を要求し、商業能力の新時代を開始する」と述べ、2028年までの完成に言及している。トランプ大統領自身も「5年以内に重要な科学計算を実行できる量子コンピュータを製造し、量子対応センサーとネットワークを開発する国家的取り組みを開始する」とコメントしている。

このほか、国防長官が主導する量子センサー・ネットワークの配備(2028年9月30日までに3件以上を実装)、国内サプライチェーンの強化、FBI主導の防諜チーム拡大、人材育成、同盟国との国際連携などが盛り込まれた。

「ポートフォリオ・アプローチ」の実態:VC化する米政府

量子コンピューティングへの一連の出資は、トランプ政権下で進む米政府による出資案件の一例にすぎない。2025年6月の日本製鉄・USスチール案件での「黄金株」取得を起点に、米政府は少なくとも30社の民間企業に対し、株式やワラント、優先株、転換権など何らかの持分を取得、あるいは取得を提案している。対象は量子コンピューティングだけでなく、半導体、原子力、レアアース、ロケットモーター、先端材料にまで広がり、商務省は2026年から「Portfolio Approach(ポートフォリオ・アプローチ)」という言葉を公式に使い始めている。

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LOI段階だった案件が本契約へと着実に移行していく過程は、この「ポートフォリオ」が絵に描いた餅ではなく、実際に積み上がりつつあることを示している。