米陸軍はこのほど、AeroVironment, Inc.(NASDAQ: AVAV)に対し、常続的高エネルギーレーザー(Enduring High-Energy Laser, E-HEL)プログラムの下での Other Transaction Agreement(OTA、その他取引協定)による量産契約を授与したと発表した。陸軍によれば、これは高エネルギーレーザー兵器システムとしては陸軍史上初の量産契約であり、AV 側の発表では「米国史上初となる指向性エネルギーシステムの量産契約」とされ、プロトタイプから量産への歴史的転換点と位置づけられている。
契約額はAV発表によれば4億6,480万ドル。発注元は陸軍のPortfolio Acquisition Executive for Fires(PAE Fires)。このOTAのもと、AVは今後数年にわたり数十基のレーザー兵器システム「LOCUST X3」を納入し、グループ 1~3 の無人航空機(UAS)に対する陸軍の階層的防空能力の強化に貢献する。増産はニューメキシコ州アルバカーキ拠点への3,000万ドル投資(2026年3月発表)により支えられる。
「一発5ドル未満」の迎撃能力
指向性エネルギー兵器の核心的な価値提案は、コストの非対称性の是正にある。ミサイル等の運動エネルギー兵器による迎撃コストは1回あたり数百万ドル規模に達することもある一方、AVが2026年3月に発表した第3世代レーザー兵器システム「LOCUST X3」は、1 発あたり5ドル未満での交戦を謳う。 出力 20~35kW超までスケーラブルなレーザーと、AIによる探知・追尾・交戦を自動化するソフトウェア「AV_Halo PINPOINT」を組み合わせ、JLTVやISVといった戦術車両から固定拠点、洋上プラットフォームまで、プラットフォームを問わず統合できるモジュール設計を特徴とする。 ホワイトサンズ・ミサイル実験場でJIATF-401と PAE Firesが主導した試験では米国空域内での安全かつ効果的な対ドローン運用能力が実証され、AVの説明によれば国防総省(DOD)と連邦航空局(FAA)の間で国内使用を認める安全協定の締結にもつながった。
*JIATF-401:ドローンの脅威に対抗するために設立された、政府省庁横断型の統合タスクフォース
*PAE Fires:「次世代防空・長射程火力システム」の超高速な量産と配備を担う、米陸軍の最高調達執行組織
拡大する政府契約ポートフォリオ
政府の公開データに基づく著者試算(2022~2026会計年度、新規契約・IDV、義務化額)によれば、AVの対米政府契約は2022会計年度の約1.19 億ドルから 2026会計年度には約5.76 億ドルへと拡大し、陸軍が受注額の約9割を占める。 当初はウクライナ支援向けの Puma 偵察 UAS が中心だったが、2024 年度以降は Switchblade/LASSO(低高度徘徊・攻撃弾薬)が主力となり、2026年度にはドローン国内生産強化を促す大統領令等を契機とした TUAS 調達競争も立ち上がった。今回のE-HEL量産契約は、この延長線上に指向性エネルギーという新たな柱を加えるものだ。
なお、ウクライナには開戦初期に700機規模のSwitchbladeが供与されたが、ロシア軍の防空・電子戦(EW)環境の高度化で運用が難しくなり、使用頻度が低下したとされる。 単価も想定の3倍以上となる約9万ドルに膨らみ、現金制約の強いウクライナ側はより安価な民間ドローン+爆薬の組み合わせを好むようになったと報じられている。
好調な業績、指向性エネルギーは事業の柱に
2026年6月発表の2026会計年度(2026 年4月期)決算では、通期売上高は19億7,680万ドルと前年比141%増、第4四半期は6億4,160万ドルと同133%増となった。 2025年5月のBlueHalo買収、2026年3月のEmpirical Systems Aerospace買収が牽引し、第4四半期だけで両社が2億8,230万ドルを売上に寄与した。 受注高は27 億ドル、ブック・トゥ・ビル比率は1.4 倍、資金裏付けのある受注残高は12 億ドルと前年同期の7億2,660万ドルからほぼ倍増した。
宇宙・サイバー・指向性エネルギー(SCDE)部門の第4四半期売上高は1億4,920 万ドルで全体の約4分の1を占め、指向性エネルギーは自律システム(AxS)と並ぶ事業の柱になりつつある。 一方、2027会計年度の純利益見通しは800万~2,400万ドルと M&A に伴うのれん償却負担が重く、成長ペースと収益性の両立が今後の焦点となる。
広がる米軍の指向性エネルギー戦略
E-HELは AV 一社の動きにとどまらない。国防総省の対ドローン統合タスクフォースJIATF-401は2025年8月の発足以来、複数の基地で指向性エネルギー兵器の実運用試験パイロットを進めており、年内には各社の技術を競わせる「ディレクテッド・エナジー・シュートオフ」の開催も予定する。 同タスクフォース司令官のマット・ロス准将は、実運用データを積み上げることで「迎撃機など従来型の対処手段と指向性エネルギーのコストを相対比較できるようにする」ことが狙いだと語る。 ドローンによる飽和攻撃という脅威の拡大を背景に、指向性エネルギーは実験段階から調達段階へと移行しつつあり、その最前線に AV が立っていることが今回の契約から見て取れる。






