トランプ政権の移民政策強硬派として知られるスティーブン・ミラー副首席補佐官の演説が、ナチス宣伝省大臣、ヨーゼフ・ゲッベルスの言葉を思い起こさせるとして議論を呼んでいる
ミラーは21日、ユタ大学キャンパスにおける演説中に撃たれ死亡した有力な右派活動家、チャーリー・カーク氏の追悼式にトランプ大統領らとともに出席。アリゾナ州の会場に集まった数万人の聴衆を前に約6分間におよぶスピーチを行った。
冒頭、「チャーリーが亡くなった日、天使は涙を流したが、その涙はわれわれの心の中で炎に変わった。その炎は、われわれの敵が理解もできない正義の激しい怒りを燃やしている」と切り出し、事件を左派との政治闘争の新局面の始まりと位置づけた。
そして、「エリカ(カークの妻)は嵐だ。私たちが嵐であり、敵はわれわれの力や決意、情熱を理解できない」と力強く鼓舞。さらに「光は闇を打ち破り、私たちは悪に立ち向かう」「私たちは善と美徳、高潔さのために立つ」と善悪の対立を鮮明にした。
「われわれに対して暴力を扇動し、憎悪をかき立てようとする者たちよ、お前たちに何があるのだ? お前たちは何もない、お前たちは何者でもない。邪悪で、嫉妬に満ち、憎悪だ。お前たちは何も築けず、生み出せず、創造もできない。われわれは築く者であり、創造する者であり、人類を高める者なのだ」と断言。「お前たちはチャーリー・カークを殺せると思ったかもしれないが、彼を不滅にしたのだ」、「お前たちは知らない、目覚めたドラゴンを。われわれが文明、西洋、この共和国を守る覚悟の強さを」など扇動的な言葉を交え、「チャーリーが最後に注いだ献身のために残りの人生を捧げる」、「任務を成し遂げ、闇と悪の力を打ち負かす」と結束を呼びかけた。
こうした演説について、SNS上では「ゲッベルスの1932年の演説『嵐が来る』の実質的な盗作だ」との指摘が浮上。スウェーデンの経済学者アンダース・アスルンド氏も「興味深いことに、私も同じことを考えた。スティーブン・ミラーはゲッベルスだ」とコメントした。
ゲッベルスは、ヒトラー政権誕生の前年に行った選挙演説で、過去14年間の苦難は国民を欺き続けた社会民主党政権の責任であると糾弾し、ナチ党は「真実」に仕える新たな人民運動の担い手であると主張。「人々よ、立ち上がれ、嵐よ、解き放て!」と、階級や宗教を超えた民族共同体の結束と蜂起を呼びかけ、腐敗した旧政党排除と新ドイツ建設、その忠誠と献身を誓った。
さらに一部では、今回の事件と1938年にパリでナチス外交官エルンスト・フォン・ラートが暗殺された事件を比較する声もある。
ジャーナリストのM. ゲッセンはニューヨークタイムズのコラムで、当時の犯行は家族をドイツから追放された少年の「絶望の行為」だったと述べた上で、捜査官の発表が正確であれば、カーク氏を撃ったタイラー・ロビンソン被告(22)も同様に絶望的な怒りを感じていた可能性があると指摘。
事件が「水晶の夜」(ゲッベルスが主導した暴動で、3万人以上のユダヤ人が強制収容所に連行された)の口実に利用された点に触れつつ、2つの事件の類似性(被害者を憎悪に満ちたイデオロギーの代表者とみなした血迷った若者の犯行)を論じることについて、「この国の変貌した風景が、私にそう言ってはいけないと告げているような気がする」と、忍び寄る言論抑圧の気配に懸念を示した。