金曜日, 7月 24, 2026

「Dead on Arrival」──クラリティ法案に民主党反発、トランプ利益相反が壁

2
crypto coin

米上院銀行委員会デジタル資産小委員会のシンシア・ラミス議員(共和党、ワイオミング州)は、銀行委員会と農業委員会の作業を統合した「デジタル資産市場クラリティ法案(H.R.3633)」の最新テキストを公表した。共和党は超党派協議の成果として早期成立を目指す姿勢を強調するが、民主党の反応は厳しい。

エリザベス・ウォーレン上院議員(民主党、マサチューセッツ州)は法案を「Dead on Arrival(審議入りしても成立しない)」と切り捨て、法案成立に不可欠とされる民主党中道派7議員も「現状の条文では不十分」とする共同声明を発表した。上院では60票が必要とされるだけに、民主党の協力を得られるかが最大の焦点となる。

予測市場Klashiの「年内に暗号資産市場構造法制が成立するか」という予測も42%にとどまっており、市場もなお慎重な見方を崩していない。

共和党は「超党派合意」を強調

ラミス議員は声明で、「米国は常に金融イノベーションの最前線に立ってきた。今後数週間が、この機会を正しく捉える最後のチャンスになる」と強調。さらに、共和党指導部への謝意を示すとともに、「民主党の同僚たちも草案作成に重要な貢献をしてくれた」と述べ、超党派での合意形成に期待を示した。

Advertisement

しかし、そのメッセージとは対照的に、民主党側から返ってきたのは厳しい批判だった。

民主党「抜け穴だらけの法案」

上院銀行委員会の民主党筆頭メンバーであるエリザベス・ウォーレン議員は7月22日付の声明で、委員会少数派スタッフの分析を引用しながら、「最新版の法案には巨大な抜け穴があり、トランプ大統領が次の14億ドル規模の暗号資産利益を得ることを何ら防げない」と批判した。

さらに、「仮に法律が機能するとしても、大統領は司法省トップに自らの弁護士を据えており、法律そのものを無視するだろう」と主張。州司法長官など他の執行主体による措置も制限されていると指摘し、「投資家保護、金融システム、国家安全保障のいずれの観点から見ても不十分であり、この法案はDead on Arrivalだ」と結論づけた。

民主党が特に問題視しているのは、今回新たに追加された倫理規定(Section 30101)である。

最大の争点は倫理規定――「利益相反防止」か「免責条項」か

新設された倫理規定は、公職者とその配偶者によるデジタル資産の発行・スポンサー活動を在任中は禁止すると定めている。一見すると利益相反防止を強化する内容に見えるが、条文には複数の例外規定が盛り込まれている。

第三者による事業について本人が指示・支配していなければ違反とはならず、就任前から保有していた資産をブラインドトラストへ移すか売却すれば適法となる。また、公職就任前から本人の氏名や肖像を利用していたデジタル資産については、ブラインドトラストへの移管後も追加発行や販売を継続できる余地が残されている。

さらに民主党が最も問題視するのがサンセット条項だ。

この倫理規定は2029年1月20日正午で失効し、それ以前に行われた行為についても、失効後は処罰や没収、法的責任を問えないと定められている。民主党は、この仕組みが現職大統領の暗号資産事業を事実上免責する設計になっていると批判している。

背景にあるトランプの暗号資産ビジネス

民主党が厳格な規制を要求する背景には、トランプ個人の暗号資産事業がある。

先月公表された大統領の資産開示報告書によると、第2期政権発足後約1年間で20億ドルを超える利益を得ており、その大部分は暗号資産関連事業によるものだった。

一方、トランプの名前を冠したミームコインを購入した一般投資家は、合計38億ドル規模の損失を被ったとされる。また、長男トランプ・ジュニアと次男エリックも、World Liberty FinancialやAmerican Bitcoinなどの暗号資産事業に深く関与している。企業開示資料などによれば、一族に関連する事業体には数億ドル規模のトークン収益権が割り当てられているほか、エリックはAmerican Bitcoinの上場に伴い7,000万ドル超相当と評価された持分を取得した。民主党は、トランプ一家全体が暗号資産事業から巨額の経済的利益を得る構造そのものを問題視している。

中道派民主党7議員も「現状では不十分」

法案成立の鍵を握る中道派民主党議員も慎重姿勢を崩していない。

Politicoによると、アンジェラ・オルソブルックス、コリー・ブッカー、キャサリン・コルテス・マスト、ルーベン・ギャレゴ、ジョン・ヒッケンルーパー、マーク・ワーナー、ラファエル・ワーノックの7議員は共同声明で、「共和党案は現状では支持できない」と表明した。

声明では、公職者倫理、利益相反、消費者保護、不正資金対策、市場の健全性に関する規定の強化を求める一方、「この1年間、共和党と誠実に協議を続けてきた。今後も法案成立に向けた協議を続ける」とも述べており、交渉継続の余地は残している。一方で、交渉の中心人物とされるカーステン・ギリブランド議員の名前は共同声明には含まれておらず、水面下で調整が続いている可能性もある。

もう一つの火種――DeFi開発者を送金業規制の対象外に

もう一つの大きな論点が、「ブロックチェーン規制確実性法(Blockchain Regulatory Certainty Act)」を組み込んだSec.10604だ。

この条項は、利用者の資産を実際に管理・移動させる権限を持たないDeFiソフトウェア開発者やインフラ提供者について、送金業者(マネートランスミッター)としての登録義務を課さないとする内容である。

業界側は技術開発を萎縮させないために必要な措置と評価する一方、法執行機関の関連団体は強く反発している。

全米保安官協会は、金融犯罪捜査で必要となる情報へのアクセスが制限されると警告し、全米地方検事協会(NDAA)も暗号資産を利用した犯罪対策が後退すると懸念を表明している。さらに全米連邦検事補佐官協会も、検察官による資金移動犯罪の摘発能力を大きく損なうと指摘している。

8月7日までが事実上の最終局面

クラリティ法案が上院を通過するには、共和党だけでは票数が足りず、民主党の協力が欠かせない。しかし、その民主党が最も問題視する倫理規定やDeFi条項を巡る溝は依然として埋まっていない。一方、トランプ側が譲歩できる余地があるかは不明だ。ラミス議員は統合版公表前日にホワイトハウスと協議し、了承を得たと報じられている。

議会は8月7日から夏季休会に入り、その後は中間選挙モードへ移行する。今後数週間で上院を通過できなければ、下院での再採決を含め、今会期中の成立は極めて難しくなるとの見方が広がっている。

市場もこの政治情勢を冷静に織り込んでいる。Klashiでは、統合版テキストの公表期待から7月20日に年内成立確率が30%から50%まで急伸したものの、民主党の強い反発を受けて42%まで低下した。

統合版テキストの公表は前進だった。しかし、法案成立の成否を決めるのは条文そのものではなく、それを受け入れるだけの超党派の政治的合意を形成できるかどうかにかかっている。