ボーイングが7月28日に発表した2026年4〜6月期決算で、防衛・宇宙・安全保障部門は営業赤字に転落した。原因の一つは、次期大統領専用機「VC-25B」で計上した2億8,000万ドル(約448億円)の損失だった。
一方、トランプ大統領は完成を待たず、カタールから寄贈された747-8型機を暫定のエアフォースワンとして使い始めた。だが、その機体には従来機に備わっていた一部の安全・防衛機能が確認できず、この秋には再び改修工事に入る。
企業は赤字を抱え、政府は装備の足りない代替機を急造し、その負担は最終的に納税者へ回る。大統領専用機計画をめぐる混乱は、一企業の採算問題ではなく、政府調達と政治判断が生み出したコストの連鎖となっている。
「節約」のはずが重荷に
VC-25B計画は2018年、第1次トランプ政権下で契約された。契約額は2機で約39億ドル(約6,240億円)。想定を超えた費用は政府ではなくボーイングが負担する固定価格契約だった。
当時、米空軍はこの契約について「納税者に14億ドル(約2,240億円)以上の節約をもたらす」と説明していた。
しかし、大統領専用機は通常の旅客機改修とは比較にならない。世界中から指揮を執れる秘匿通信、ミサイル防御装置、空中給油能力、核爆発による電磁パルス(EMP)への耐性など、「空飛ぶホワイトハウス」と呼ばれるだけの特殊装備が求められる。
認証や改修は想定以上に難航し、ボーイングは今回さらに2億8,000万ドルの損失を計上した。航空専門誌アビエーション・ウィークの推計によれば、累積損失は約28億ドル(約4,480億円)に達し、契約額の約7割に相当する。
決算でも、その重荷は鮮明だった。防衛部門の売上高は前年同期比13%増の74億8,300万ドル(約1兆1,973億円)だったが、営業損益は1,500万ドル(約24億円)の赤字に転落した。増収でも赤字という決算の背景に、VC-25Bがある。
ボーイングは2028年半ばの納入予定を維持している。ただし防衛部門トップのスティーブ・パーカー氏は今月、最終組立を終え、配線と構造を仕上げ、認証を通過するまでの間に「ある程度のコスト増が出ると見ている」と語った。損失はまだ確定していない。
待ちきれなかった大統領
完成が見えないなか、トランプ大統領は別の選択をした。
ニューヨーク・タイムズなどによると、大統領は2025年2月、カタール王室向けに仕立てられた747-8型機を視察し、その場で採用を決断した。空軍は同年8月に機体を取得し、テキサス州で改修を開始。当初18〜24か月と見込まれた作業は、建国250年に間に合わせたいという大統領の強い意向で約8か月へ短縮された。
こうして2026年7月1日、暫定のエアフォースワンは就役した。しかし、その短縮されたスケジュールは、安全保障上のトレードオフを伴っていた。
「エアフォースワン」ではないエアフォースワン
就役から約1週間後の7月8日、トルコでNATO首脳会議に出席していたトランプ大統領は、帰路で旧型エアフォースワンへ乗り換えた。米当局がイランの代理勢力による「信頼性のある脅威」を認定し、シークレットサービスが機体変更を進言したためとされる。
その後、ニューヨーク・タイムズは、暫定機には従来のエアフォースワンと比べて複数の重要装備が確認できないと報じた。地上設備に頼らず乗降できる下部ドアと内蔵式階段は写真上で確認できず、電源が途絶えた際に備える補助動力装置(APU)も、通常2基のところ1基のみだった。接近するミサイルを妨害する赤外線対抗装置も確認されておらず、核爆発時のEMP対策が施されたかどうかも明らかになっていない。
FAAは特殊な座席配置について大統領初飛行直前に特例承認を出しており、元当局者からは「大統領搭乗に間に合わせたように見える」との指摘も出た。
空軍の説明は、全面否定ではない。「安全保障、安全性、任務通信においてリスクは取っていない」としたうえで、「使用頻度の低い任務セットのいくつかについては取捨選択を行った」と認めている。
専用機の近代化を統括したフランク・ケンドール元空軍長官は、こう述べる。「エアフォースワンと比べて多くの不足があることを、人々は知っておく必要がある。それはリスクを増やす」
そうしたなか、7月19日、防御能力について問われたトランプ大統領は「1か月ほどで最大限まで強化してもらうことになる」と説明。ホワイトハウスはこの秋、就役から3か月足らずの機体をいったん運用から外し、追加改修を実施する計画を明らかにした。
隠れた請求書
問題は、ボーイングの赤字だけでは終わらない。
暫定機の改修費について、空軍長官は議会で「おそらく4億ドル(約640億円)未満」と説明していた。だが747-8は旧機と操縦席が異なるため、乗員の訓練を急ぐ必要が生じた。空軍は2025年10月から翌年2月まで貨物用747-8をリースし、同年12月には訓練専用機と部品取り用の747-8を計2機購入した。この2機だけで追加4億ドルである。合計すると、納税者負担は10億ドル(約1,600億円)規模に達するとの推計が出ている。
財源も不透明だ。トロイ・ミンク空軍長官は上院の証言で、核ミサイル近代化計画「センチネル」の資金が使われたことを認めた。ニューヨーク・タイムズによれば、2025年夏に9億3,400万ドル(約1,494億円)が同計画から名称非公表の機密事業へ移されている。
クリストファー・マーフィー上院議員(民主・コネチカット州)は批判する。「既存のエアフォースワン改修の費用について、我々は日常的に議論している。それなのに彼らは、この作業だけは国家安全保障上の秘密であり、歳出委員にすら明かせないと宣言している。到底容認できない」
誰も得をしていない
現時点で見えている勘定は、次のようになる。
ボーイングがVC-25B計画で被った損失は、推計で累計約28億ドルに達する。政府支出を抑えるために結ばれた固定価格契約が、受注企業にとっては契約額の7割に及ぶ負担となった。
その一方で、納税者が守られたわけでもない。暫定機の改修と乗員訓練に約10億ドル規模を負担する見通しで、その一部は核戦力の近代化に充てられるはずだった予算から回された。しかも暫定機は就役から3か月足らずで再改修に入り、本来のVC-25Bは2028年半ばまで完成しない。
2018年、米空軍はこの契約を「納税者に14億ドル以上を節約する」と説明していた。
8年後に見えてきたのは、企業も政府も納税者も、それぞれが想定外のコストを支払うことになった現実である。





