トランプ大統領が、2028年の共和党大統領候補としてJDバンス副大統領を有力視していることを示唆する発言を、非公開の場でしていたことが分かった。ワシントン・ポスト紙によると、約2週間前、オーバルオフィスで開いた献金者との会合で、「最終的には、我々はJDを当選させなければならない」と述べたという。
この発言は、トランプ自身がこの1年にわたって公の場で演出してきた構図とは食い違う。彼はバンスとマルコ・ルビオ国務長官の両氏を競わせるような姿勢を見せ、二人が「良いコンビになる」とたびたび語ってきた一方、どちらを支持するかは明言していない。
トランプが献金者との会合でバンス氏への支持を示唆した後も、先月末にはマリーンワンの機内で側近に対し、バンスとルビオのどちらがよいかを尋ねていたと、ホワイトハウス当局者の一人は明かしている。トランプに近いあるアドバイザーは、大統領が内心ではバンスを後継候補と見なしているとしながらも、「出馬表明や支持表明の時期を決めるにはまだ早すぎる」と語った。一方、複数の側近は、トランプは相手によって発言を変える人物であり、今後心変わりする可能性も十分にあると指摘している。
トランプが支持表明を意図的に先延ばししている背景には、早い段階で後継者を指名すれば、自身がレームダックと見なされることを避けにくくなるとの判断があるとの見立てがある。
バンス自身は、現時点で2028年大統領選への出馬について明確な態度を示していない。周辺によれば、7月19日に4人目の子どもが生まれたこともあり、判断は中間選挙後まで持ち越す構えだという。バンスは6月のCBSのインタビューで、「大統領が私のどのような決断も強く支持してくれると確信している」と述べた。ただし、同時に現在は副大統領としての職務に集中しているとも繰り返し強調している。
バンスへの逆風――「Never Vance」
その一方で、バンスは共和党内から異例の激しい攻撃を受けている。
SNS上では「Never Vance」を掲げるグループが存在感を強めており、イランの核問題を巡る和平交渉におけるバンスの役割を「副大統領として不適格」と批判する投稿が広がっている。トランプの意向に反した政策判断をしているとの主張も相次いでいるが、根拠が明確に示されていないものも少なくない。バンスをオバマ元大統領やバーニー・サンダース上院議員になぞらえる揶揄も見られる。
攻撃が目立って強まったのは、バンスが7月15日にジョー・ローガンのポッドキャストに約3時間出演した後だった。バンスは番組内で、自身を「理性的な穏健派」と位置づけた。また、イスラエルとの関係を巡る自身への批判について、元トランプ陣営関係者が運営する親イスラエル系の「影響工作」を通じた「不誠実な」攻撃だと主張した。そのうえで、「行きたい奴には地獄に行けと言いたい。私は米国民のためにやるべきことをやる」と述べた。
ワシントン・ポスト紙の分析によると、この発言の直後、保守系インフルエンサーによるバンス批判の投稿が急増した。ベン・シャピーロら親イスラエル派の著名な論客に加え、米国の実在の有権者によるものか判然としないアカウント群も攻撃に加わっていたという。
バンスに近い関係者は、この攻撃の波を、自然発生的な反発ではなく、組織的な取り組みとみている。
副大統領を支持する保守活動家のジョン・シュウェップも、自身の投稿が大規模アカウントに拡散された形跡がないにもかかわらず、フォロワーではない大量のアカウントから一斉に反論を受けたと指摘した。そのうえで、「党内予備選は、もう中間選挙前から始まっている」と語っている。
大口献金者の間でルビオ支持が浮上
こうした党内の緊張を裏付けるように、共和党の大口献金者の間からは、ルビオ支持する声も上がり始めている。
Axiosによると、ヘッジファンド運営会社シタデルの創業者であるケン・グリフィン氏は7月上旬、アイダホ州で開かれた非公開会議で、「2028年の予備選でバンス氏とルビオ氏が対決するなら、ルビオ氏を支持する」と明言した。
グリフィンは、2024年の大統領選サイクルで1億ドルを超える献金を行ったとされる、共和党で最も影響力のある資金提供者の一人だ。2016年の大統領選ではルビオを支援したほか、2024年の副大統領候補選びに際しては、トランプにバンスを選ばないよう働きかけていたことも知られている。
グリフィンの発言は、ウクライナ支援や中東への軍事的関与に批判的なバンスを、共和党の伝統的な外交・安全保障エスタブリッシュメント層やネオコンが警戒していることを象徴している。こうした層の一部は、より介入主義的で、従来の共和党主流派に近い外交姿勢を取るルビオを、バンスに代わる候補として評価している。
もっとも、ルビオ自身は「バンス氏が出馬するなら支持に回る」と繰り返し表明している。したがって、ルビオが現時点でバンスへの対抗馬となることを明確にしているわけではない。ただ、グリフィンのような主流派ドナーの間で、ルビオへの期待が温められていることは確かだ。
予測市場にも表れる変化
党内での攻撃やルビオへの支持の動きは、予測市場の数字にも表れ始めている。
予測市場Kalshiの「2028年共和党大統領候補」を巡る取引では、1月初旬の時点で、バンスの指名確率は47.8%、ルビオは11.7%だった。両者の間には大きな差があったが、8月6日時点ではバンスが40%、ルビオが27%となっている。
ルビオの指名確率は15.3ポイント上昇し、相対的には2倍以上になった計算だ。SNS上で広がる「Never Vance」の動きや、グリフィンのような大口献金者の姿勢が、市場参加者の見立てに影響した可能性を示す材料の一つといえる。
ただし、予測市場の数字は世論調査における支持率ではない。市場参加者が候補者指名の可能性をどのように見ているかを示すものであり、実際の共和党有権者の支持を直接表すものではない点には注意が必要だ。
分水嶺となる中間選挙
現時点で、バンス氏の優位そのものが崩れたわけではない。トランプが非公開の場で示した支持、副大統領として約1年半にわたり築いてきた政治的基盤、そして予測市場でなお13ポイントのリードを保っていることを考えれば、バンスは依然として最有力候補だ。
ただし、トランプの支持がそのまま共和党全体の支持に転換されるとは限らない。バンスへの党内攻撃が続けば、トランプとの関係だけでなく、外交・安全保障政策や党内各派との距離も問われることになる。
今後の焦点は、今年の中間選挙の結果だ。共和党が苦戦すれば、トランプ本人には向けにくい批判がバンスやルビオに集中し、対抗馬が名乗りを上げる余地も広がる。
トランプが最終的に、いつ、誰を公に後継候補として支持するのか。その答えは、共和党内の攻防と有権者の審判が交差する中間選挙後まで持ち越されることになりそうだ。





