ARK Investの創業者兼CEO、キャシー・ウッド(Cathie Wood)は9月16日午前(米国時間)、X(旧Twitter)への投稿で「Starshipは1回の打ち上げで10億ドルの収益を生む可能性があり、イーロン・マスクが目指す年間1万回の打ち上げが実現すれば、2030年までにStarshipの収益は10兆ドルに達する」との試算を示した。この投稿にはマスク本人が「不可能ではない(It’s not impossible)」と返信し、注目を集めた。
もっとも、その強気な予測から間もなく、肝心のStarship試験飛行そのものは延期が発表され、SpaceX株(SPCX)は週末にかけて下落する場面もあった。
Xでのやり取り
ウッドの投稿は、ARKの宇宙アナリストであるサム・コーラスがStarlink Version 3(v3)衛星の打ち上げ準備が整いつつあることに触れた投稿への引用リツイートという形で行われた。
「Starshipは1回の打ち上げで10億ドルの収益を生む可能性がある。イーロンは年間1万回の打ち上げを目指しており、それが実現すれば2030年までにStarshipの収益は10兆ドルに達する。もしSpaceXがこの目標を達成すれば、(株式公開時の)1兆7,500億ドルという評価額は、後から振り返れば割安な投資機会だったと評価されるだろう」
SpaceX自身も強気の発言
ウッドの投稿に先立ち、SpaceXの最高財務責任者(CFO)ブレット・ヨンセンはゴールドマン・サックス主催のカンファレンス(9月10日)で事業戦略について詳しく説明している。
ヨンセンは、ロケット・衛星の製造から顧客対応、地上・軌道上のコンピューティング基盤に至るまで垂直統合を貫く姿勢を強調し、「われわれは未来のインフラを構築していると本気で信じている」と述べた。Starshipについては、13回目の試験飛行でデモ用のStarlink v3衛星の搭載、Raptorエンジンの再着火、そしてこれまでで「最も穏やかで精密な」海上着水を達成したと説明した。回収した機体を検証し、耐熱シールドの状態に関する知見を14回目以降の準備に反映しているという。14回目の飛行は、量産型のStarlink v3衛星を搭載する初の「収益を生む商業ミッション」になると強調。両段の再使用については、Falcon 9ブースターをこれまでに500機以上再飛行させてきた実績を踏まえ、Starshipでも年内に大きな節目を迎える見通しだと語った。
軌道上のAIコンピューティングについて、来年(2027年)に最初の軌道計算衛星の打ち上げを目指すと説明した。V3衛星のプラットフォームをベースに、ペイロードと太陽電池パネルを拡張した仕様になるという。軌道上コンピューティングは、地上データセンターが直面する電力・冷却・許認可の制約を回避できるとして「間違いなく未来だ(definitely the future)」と述べ、Starshipの再使用が進めば早ければ来年にも地上設備とコスト面で肩を並べ得るとの見通しを示した。地上側の計算能力についても、年末時点で2GW超、来年は5~10GWの展開を目指すとしている。
ヨンセンはまた、12月1日に開始予定の月間11億1,000万ドル(年換算で約130億ドル)規模の新規ホスティング契約を明らかにした。この契約により、2026年内に年間経常収益(ARR)1,000億ドルを達成するとの経営陣の確信が一段と強まったという。
試験飛行は9月28日に延期、理由は非公表
ウッドの発言時点で、Starship14回目の試験飛行は9月22日に予定されていた。ところがSpaceXは9月17日、打ち上げ予定日を9月28日に変更すると発表した。延期の理由は明らかにされていない。
Starshipはこれまで13回、意図的に「準軌道」の飛行経路を取ってきたが、14回目は初めて地球を周回する軌道への投入を目指す。SpaceX公式のミッション説明によれば、上段は高度約275kmに到達し、約10時間・約6周回の飛行の後、チリ沖の太平洋に着水する計画。軌道投入は、着水直前に必要となる離脱燃焼(デオービットバーン)に十分な冗長性が確保されたことを飛行管制チームが確認した後にのみ実施するという。ブースター(スーパーヘビー)はメキシコ湾沖での着陸を試みる。前回13回目の飛行では、ブースターが33基のエンジン全てを使ったブーストバック燃焼に初めて成功したものの、終盤に中央の3基でエンジンへの着氷が疑われる不具合が発生し、燃焼が早期に打ち切られた経緯がある。今回はエンジンへのフィルタリングを改善するハード面の変更と、再着火の信頼性を高めるソフトウェアの変更が加えられているという。
積み荷はStarlink v3衛星26基(1基あたり1Tbpsの通信容量、合計26Tbps。Falcon 9によるv2 mini衛星の打ち上げ1回と比べて約10倍の容量)。このうち3基にはカメラが搭載され、Starship上段の耐熱タイルの状態を軌道上から撮影・伝送する。耐熱タイルについても、前回13回目の機体がインド洋に着水した際に得られたデータをもとにした改良が複数加えられており、Ship 40から回収されたタイル2枚がShip 41に再装着される計画で、実現すればStarship初のタイル再利用となる。
株価の反応 ―― 強気材料と弱気材料が交錯
SpaceX株(SPCX)は、延期発表を受けて9月18日(金)に2%超下落し、その週の上昇幅は約1%まで縮小した。Barron’s誌によれば、JPMorganの分析では直近3週間で個人投資家による約5億7,000万ドル相当の売却があり、うち直近1週間だけで2億5,000万ドルが売られた。これは同行が把握する中で最大級の週間の個人売り越し規模だという。
一方で、SpaceXに約250億ドルを投じているとされる大手投資家ロン・バロン氏(バロン・キャピタル)は強気の姿勢を崩していない。9月16日のCNBCインタビューで、バロン氏はStarlink事業単体で「現在すでに年間180億ドル近い収益を生んでいる」との見方を示し、「Starlinkだけで10年後には年間1兆ドルの収益になり得る」と述べた。
SpaceXとテスラの合併観測も再燃
このタイミングで、SpaceXとテスラ(TSLA)の合併をめぐる観測も改めて話題になっている。バロン氏は前述のCNBCインタビューで、マスク氏に対し「(合併するかどうか)あなたが決めることを、私は支持する」と伝えたと明かした。マスク氏自身も、All-In Summitでの登壇時、両社が別会社であり続けるかどうかについて「これだけ多くの領域で緊密に連携している中で、どんな判断がなされるか誰にも分からない」と含みを持たせる発言をしている。合併観測は、SpaceXが6月に新規株式公開(IPO)する以前にも浮上している。ただし、合併の是非についてSpaceXからの公式な説明はなく、あくまで観測・発言の域を出ない話であることには注意が必要だ。
ARKの保有とテスラ・SpaceXへの投資テーゼ
ARK Investにとって、テスラとSpaceXはいずれも主力ファンドARK Innovation ETF(ARKK)の上位保有銘柄だ。9月18日時点のARKKの保有比率は、テスラが9.38%(201万3,061株、時価約7億3,700万ドル)、SpaceXが6.51%(330万3,943株、時価約5億1,100万ドル)となっている。両銘柄を合わせるとARKKの保有比率の約16%を占める計算で、上記のような合併観測が仮に具体化した場合、ARKにとっても影響の大きい組み合わせと言える。
ARKは9月1日付の登録者向けニュースレターで、SpaceXの投資テーゼをより詳しく説明していた。同社とルイジアナ州が発表した「Starbase Louisiana」計画は、同州ベルミリオン郡のピーカン島周辺の約12万5,000エーカーに1,000億ドル規模を投じるインフラプロジェクトで、5つの複合施設・タワー12基超を建設し、最終的には1日あたり約30便の打ち上げに対応する計画だという。建設開始は2027年、初打ち上げは2029年以降を見込む。
ARKはこの投資について、Starlink衛星の打ち上げ1回あたり生涯純キャッシュフローを約40億ドルと試算し(打ち上げ・製造・地上局設置・顧客獲得コストの合計は約10億ドル)、2027年に10機目の完全再利用型ロケットの打ち上げに成功すれば税引後の内部収益率(IRR)は年率ほぼ100%に達すると見積もっている。さらに、Starlinkの先にはAI衛星コンステレーション「Starmind」構想があり、軌道上の計算資源をサービスとして貸し出すモデルで、AnthropicやOpenAIが占める性能フロンティアへの追随を図るとしている。
なお、これらの数字はいずれもARK自身の試算・投資テーゼであり、SpaceXが将来確実に達成するものではない。
Starship14回目の試験飛行は9月28日に延期されたうえで実施される見通しだ。実際に軌道投入と衛星展開に成功するかどうかが、ウッドの強気な予測が現実味を帯びるかどうかの最初の試金石となる。






