かつてビットコインを「空気に基づくもの」と切り捨てたトランプ大統領は、いまや「米国を世界一の暗号資産国家にする」と宣言するまでに立場を転換した。ビットコイン備蓄の創設、規制改革、子供向け投資口座制度(Trump Account)と、政策は一気に具体化している。
その裏側で、個人の投資行動にも特徴的な傾向が見られる。
1~3月の購入:8社・購入33件
今月開示されたOGE Form 278-Tに基づく同誌の調べでは、2026年1月から3月末にかけて、暗号資産関連と位置づけられる企業の株式購入が計33件(売却17件)記録された。推定総額は約207万ドル。全購入額(推定2億4,800万ドル)の1%未満に過ぎないが、テーマとしての偏りは明確だ。
企業 購入 件数 推定合計 取引期間
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CME Group 4件 $823,000 2/10~3/17
Coinbase Global 7件 $364,000 1/12~3/18
Block Inc(Cash App) 6件 $289,000 1/12~3/26
Robinhood Markets 3件 $216,000 3/11~3/23
PayPal Holdings 7件 $215,000 1/12~3/26
Strategy Inc.(旧MicroStrategy) 4件 $99,000 1/12~3/26
Cleanspark 1件 $33,000 3/4
MARA Holdings 1件 $33,000 3/30
*開示書類は取引金額をレンジで示すため、本稿の金額は中央値ベースで算出している。
政策との接続
ビットコイン備蓄――Strategy・MARA・Coinbase
2025年3月に発表された「戦略的ビットコイン備蓄」は、政府が押収したビットコインを国家資産として保有する構想だ。その後進捗が報じられていなかったが、今月開かれた暗号資産関連イベントでのインタビューにおいて、ホワイトハウスのデジタル資産政策関係者が、資産の保護体制を含む規制上の課題に進展があったことを示唆。実現期待が高まった。
この文脈では、Strategy、MARA、Coinbaseはいずれも価格上昇や制度整備の恩恵を受けやすいポジションにある。
Strategy Inc.(旧MicroStrategy)は米国株式市場で最大のビットコイン民間保有企業であり、ビットコイン価格の上昇が直接資産価値を押し上げる。MARA Holdingsはマイニング企業として、備蓄の合法化によるビットコイン価格上昇の恩恵を受ける。さらに2025年3月の段階からホワイトハウスとの協議に加わっているCoinbaseは、政府のビットコイン資産のカストディ(保管・管理)サービス提供の有力候補とみられている。
これら銘柄は1月から継続的に買い増されている。
Clarity法案――CME・Coinbase・Robinhood
「デジタル資産市場Clarity法案」は、暗号資産をSEC(証券)管轄かCFTC(商品)管轄かに明確に振り分けることを目的とした立法だ。2026年5月、上院銀行委員会を15対9で通過した。本会議にかけられる日程は未定だが、政権側は7月4日の大統領署名を目指していると一部で報じられている。
CMEはこの法案の構造的受益者とみられる。暗号資産が商品として整理されれば、同社のデリバティブ市場は制度的な追い風を受ける。2月10日の大口購入(推定約75万ドル)は、関連銘柄の中でも突出している。
CoinbaseやRobinhoodが“直接的なクリプト銘柄”であるのに対し、CMEは伝統的金融インフラとして位置づけられる。この選択は、単なるテーマ投資というより、規制の方向性に対するポジショニングと解釈することもできる。
フィンテック規制緩和――PayPal・Robinhood・Coinbase
2026年5月19日に発表された大統領令は、フィンテック企業に対する規制見直しを各当局に指示する内容だった。注目すべきはFRB(連邦準備制度)への「要請」だ。ノンバンク金融会社やデジタル資産企業による決済口座および決済サービスへのアクセスについて、制度的な枠組みの評価を求めている。これにより、リアルタイム決済ネットワークへの直接参加の可否が重要な論点として浮上する。
PayPalはステーブルコインの発行・取引・カストディサービスを既に展開しており、この政策の直接的な受益者として位置づけられる。Block Inc(Jack Dorsey率いるフィンテック企業で、Cash AppはBitcoin決済の主要チャネル)も7件・推定$28.9万と、PayPalに近い規模で買い続けられており、フィンテック規制緩和の恩恵を受ける企業として同列に並ぶ。
トランプ口座(Trump Account)――Robinhood
1月6日、Robinhood株を推定$37.5万で売却。これはこの期間のRobinhood取引で最大の単件だ。その後2月12日・23日にも小口で売却し、合計売却額は推定$41.6万に達する。
ところが3月に入ると方向が逆転する。3月11日から23日に計3件・推定$21.6万の購入が記録された。最大単件は3月17日の推定$17.5万だ。
そして4月6日、財務省はTrump Accountの運営委託先としてBNYメロンとRobinhoodを選定したと発表した。政府が2025~2028年生まれの子供に$1,000を拠出するこの制度で、BNYが口座管理を担い、Robinhoodがブローカー兼受託者として技術インフラ・フロントエンド・顧客サポートを担当する。CEOのブラッド・テネフは、メディアのインタビューで、「何百万人もの人々の最初の投資口座になる」と語っている。
1月に売り、3月に買い戻す。このタイミングの一致は興味深い。ただし、政策決定との直接的な因果関係を示すものではない。
「自動運用」という説明と残る問い
報道によれば、Trump Organizationは、売買は第三者金融機関による裁量取引であり、トランプ本人は判断に関与していない点を強調している。これは開示書類の所々にみられる「裁量行使」の記述とも整合的だ。
もっとも、一般に裁量運用であっても、投資対象の範囲やリスク配分といった基本方針は事前に設定される。そのため、個別銘柄選定への関与がどの程度排除されていたかは、制度上も外部から検証が難しい。
現行制度では、大統領の株式取引は明確に禁止されておらず、議員に適用されるSTOCK法の対象外でもある。政策立案と投資行動が同一主体に内在する状況において、その線引きの曖昧さ自体が市場にどのように受け止められるかは、引き続き注視が必要だ。
*本稿は公開情報に基づく時系列分析であり、個別の投資判断や政策決定の因果関係を断定するものではありません。






