米国の暗号資産市場構造法案「Clarity Act(クラリティ法)」が上院で停滞している。下院は2025年7月に通過済みだが、上院では農業委員会と銀行委員会が分割審議。農業委は2026年1月に可決した一方、銀行委員会はマークアップを中断したままだ。
背景にあるのは、銀行業界とクリプト業界の利害対立だ。4月後半に審議再開との観測もあったが、現時点でスケジュールすら提示されていない。
この状況を打開するため、Coinbase、Circle、Kraken、Ripple、Andreessen Horowitz、Paradigm、Consensysなど100社超が連名で書簡を提出。ティム・スコット銀行委員長らに対し、早期審議を求めた。(CoinDesk)
書簡は「政府機関による場当たり的な執行では安定したルールは構築できない」と指摘し、SEC・CFTCによる“エンフォースメント中心の規制”への回帰リスクを強く警告している。
業界が求める6つの優先事項
書簡で提示されたとされる優先事項は以下の6点。
- ペイメント型ステーブルコインに紐づく消費者報酬の保護
- SECとCFTCの監督権限の明確化
- ノンカストディアルツール開発者の法的保護
- 実務的に遵守可能な情報開示ルールの設計
- 州ごとの規制分断を避ける連邦基準の確立
- EU(MiCA)などとの国際競争力の維持
EUではすでに包括的枠組みMiCAが施行済みであり、米国の遅れは資本・人材の海外流出につながるとの危機感が共有されている。
本当の争点は「預金を侵食するか」
審議停滞の核心は、ステーブルコインの利回り規制にある。
2025年成立の「Genius Act」は、発行体による直接利回りの提供を禁止した。しかし、取引所など第三者経由の利回りについては明確な規定がなく、ここが“抜け穴”として残されている。
銀行業界はこれに強く反発している。ステーブルコインが利回りを提供すれば、預金が流出する可能性があるからだ。これは単なる商品設計の問題ではない。銀行のビジネスモデルそのものに関わる構造問題だ。
4月初旬、ホワイトハウスの経済チームは「影響は貸出の約0.02%にとどまる」とする分析を提示し、論点の沈静化を図った。しかし銀行側は即座に反論。溝は埋まっていない。
この対立が、銀行委員会での審議を止めている。
市場の反応
市場もこの停滞を織り込み始めている。
4月23日、ビットコインが横ばいで推移する一方、Coinbase株は7%下落。24/7 Wall St.はこれを“デカップリング”と分析した。
通常、Coinbase株はビットコインに対して高いベータを持ち、上昇局面ではより大きく上げ、下落局面ではより強く売られる傾向がある。しかし今回は、ビットコインがほぼ動かない中で株式のみが下落しており、この関係が崩れている。
このようなデカップリングは、市場全体の弱さではなく、企業固有または規制要因による圧力を示唆するケースが多い。Coinbaseは単なる価格連動資産ではなく、規制下で運営される取引所であり、カストディや機関投資家向けインフラを担う存在でもある。
そのため、規制の不確実性が高まる局面では、暗号資産そのものよりも先に、かつ強くビジネスモデルへのディスカウントが進む。今回の値動きも、暗号資産市場の弱さではなく、「Clarity Act」を巡る不透明感が取引所モデルに集中して織り込まれていることを示している。
予測市場も後退——「温度差」が拡大
この流れは、予測市場にも表れている。
PolymarketにおけるClarity Actの年内成立確率は、一時80%超から急低下。4月19日に50%を割り込み、現在は44%まで下がっている。
業界が議会への圧力を強める一方で、市場はむしろ悲観を強めている。
成立までの5つのハードル
Clarity Act成立には、以下のプロセスを通過する必要がある。
- 上院銀行委員会でのマークアップ
- 上院本会議での可決(60票以上)
- 農業委員会版との条文調整
- 下院通過版との最終統合
- 大統領署名
中でも最大の関門は、いまだ着手されていない銀行委員会の審議だ。
同委員会所属のバーニー・モレノ議員は「5月末までに通過できなければ無期限停滞の可能性がある」と警告しており、このタイミングが法案の帰趨を決定づける分岐点となる。
Clarity Actが失速すれば、問題は単なる立法の遅れでは終わらない。
エンフォースメント中心の規制が続くということは、「米国でクリプトを展開するコスト」が上昇し続けることを意味する。法的不確実性は、新規参入を抑制し、機関投資家の本格参入を遅らせる。結果として、資本と人材は海外へ流出する。今回の値動きは、その未来がすでに織り込まれ始めていることを示している。







