中間選挙に向け、AI関連団体に、異例の規模の政治資金が流入している。
今月更新されたFEC(連邦選挙委員会)のデータベースによると、AI関連最大のスーパーPAC「Leading the Future(LTF)」は、2026年第1四半期(1〜3月)で2,500万ドル超を調達。2025年8月の設立以来の累計は7,500万ドルを超え、手元資金は5,100万ドルに達した。中間選挙で伝統的に最大級の支出を誇る下院系スーパーPAC「HMP」(手元資金約6,385万ドル)と比べても遜色ない水準だ。
LTFは「連邦による単一フレームワーク」を支持する候補者を与野党問わず支援し、州ごとに分断された規制体制に反対する立場を取る。出資者には、ベンチャーキャピタルのAndreessen Horowitz(a16z)のMarc AndreessenとBen Horowitz、OpenAI共同創業者のGreg Brockman夫妻、Perplexityなどが名を連ねる。
さらに4月15日の声明では、関連組織を含めた調達・コミットメントは1億4,000万ドル超、手元資金は1億ドルに達したと明らかにしている。
これに対抗するのがAnthropic陣営だ。Anthropicは2026年2月、Public First Actionに2,000万ドルを拠出。同グループは「AI安全基準を支持する超党派候補者30〜50名の支援」を掲げ、規制そのものは否定せず、むしろ強化を志向する。
Public First Actionは5,000万ドル超の手元資金を持つとされ、2026年第1四半期は、関連する3つのスーパーPAC(政治活動委員会)、Public First、Jobs and Democracy PAC、Defending Our Valuesに500万ドル超を提供している。
両者の対立軸は明確だ。LTFが「イノベーション優先」、そのための「規制の統一(州規制の抑制)」を志向するのに対し、Anthropic側は連邦レベルでの規制を理想としつつも、「安全基準の制度化」を優先し、州ごとの強力な規制も容認する立場を取る。
なぜ今、政治資金なのか
背景にあるのは、AIに対する世論の警戒と、州レベルでの規制加速だ。
Quinnipiac大学が2026年3月に公表した調査では、「政府のAI規制が不十分」とする回答は74%(2025年4月の69%から上昇)、「企業の透明性が不十分」は76%に達した。さらに、AIデータセンター建設についても65対24で反対が上回る。電力消費、水資源、騒音といった生活環境への影響が懸念されている。
立法面では、2026年3月時点で45州に1,561本のAI関連法案が提出されており、すでに2024年通年を上回った。これは、米国のAI規制が「州ごとのパッチワーク」へと急速に向かっていることを意味する。
カリフォルニア州はフロンティアモデルに安全報告を義務付けるSB 53を制定、ニューヨーク州もRAISE Actを成立させた。データセンターについても、少なくとも14州で建設制限が検討されている。
メイン州では全州的な建設モラトリアム法案が可決されたが、ミルズ州知事が拒否権を行使しており、規制の方向性はなお流動的だ。
トランプ政権vs議会:埋まらない溝
一方で、トランプ政権は州規制への対抗姿勢を鮮明にしている。2025年12月の大統領令により、司法省内にAI Litigation Task Forceを設置。「過度な州規制」を連邦裁判所で争う枠組みを整えた。さらに2026年3月の国家AI政策では、「州ごとの規制乱立を防ぐため、議会は先占すべき」と明記している。
しかし議会の動きは鈍い。One Big Beautiful Bill Actに含まれていた州規制モラトリアム条項は、上院で99対1で削除された。党内の温度差や、選挙前に規制問題でリスクを取りたくない思惑が背景にあるとみられる。結果として、政権の方針は法的裏付けを欠いたまま宙に浮いている。大統領令だけでは州法を無効化できず、企業は引き続き州規制に従わざるを得ない。
2025年以降、議会には100本以上のAI関連法案が提出されているが、ほぼすべてが棚上げ状態にある。
資金が選挙を動かす
こうした中で、資金投入はすでに一定の成果を見せている。LTFは複数の予備選での勝利を主張。イリノイ州では民主党候補に100万ドル超、ノースカロライナ州では共和党候補に6ケタの広告費を投じ、テキサス州では共和党4候補に計140万ドルを投入し、全員が当選または決選投票に進んだとしている。さらに、複数州で追加投資を計画しており、州議会レベルでも「AIイノベーション推進派」の支援を拡大する方針だ。
今後の注目点
2026年中間選挙は、AI業界が本格的に政治資金を投じる初の選挙であり、競争条件に重大な影響を与える可能性を示している。
もしLTF支援候補の当選率が高まれば、連邦による単一規制の実現可能性は上昇する。特にOpenAIやa16z投資先企業にとって、有利な制度設計が進む余地がある。
ただし現時点では、議会の消極姿勢に加え、民主党が下院を奪還する可能性もあり、連邦統一規制への追い風は強くない。AI規制が政権への対抗軸として政治化すれば、LTFの影響力も限定される可能性がある。
一方、「州パッチワーク規制」の固定化・長期化に傾けば、市場の不確実性の増大、とりわけ資本やコンプライアンス能力に劣る中小企業にとっては厳しく、業界の寡占化が加速する可能性がある。

