$100M超の調達を宣言しながら、FEC上は収支ゼロ――実態が見えないまま沈黙を保っていたクリプト系スーパーPAC「Fellowship PAC」が、初めて動いた。流れた先はいずれも、トランプ大統領が支持するMAGA系候補者だった。
連邦選挙委員会(FEC)の最新開示によると、Fellowship PACはCantor Fitzgeraldから$1,000万(1月23日)、Anchor Labs(Anchorage Digital)から$100万(1月12日)を受領。そして4月7〜9日にかけ、三つの候補者へ計$150万の広告費を支出した。
支援先はジョージア第14選挙区(下院)特別選挙に出馬・勝利したクレイ・フラー($35万)、ケンタッキー州上院予備選に出馬するネイト・モリス($85万)、ネブラスカ州現職上院議員のピート・リケッツ($30万)の3名。全員がトランプのエンドースを受けた共和党候補だ。
TetherとFellowship PACの人的回路
Fellowship PACは2025年8月に発足し、$100M超の調達を宣言したものの、FEC報告上は長らく支出ゼロが続いていた。転機は4月1日。Tether USの規制担当VP・ジェシー・スピロが会長に就任し、TetherとPACの公式なつながりが初めて確認された。
会計責任者はTetherの準備資産カストディを担うCantor Fitzgeraldの幹部(NYT報道)。さらに初の広告支出先であるNxum Group LLCは、Tether US CEOで元トランプ政権クリプト顧問のボー・ハインズが共同創業した会社だ。会長・会計・支出先のすべてがTetherの人的ネットワーク上に乗っている。
寄付者も同様だ。Cantor FitzgeraldはTetherの準備資産カストディ業者、Anchor Labs(Anchorage Digital)は、Tetherが米国向けに発行するステーブルコイン「USAT」の発行銀行を擁する企業。TetherはAnchorage Digitalに$1億を出資しており、その出資先企業からFellowship PACへ$100万が流れた構図になる。
Cantor Fitzgeraldと現政権の距離も見逃せない。同社の前会長兼CEOは現商務長官のハワード・ラトニックであり、政権入りに際して退任し、息子のブランドンに経営を引き継いだ。規制環境を左右する閣僚の「古巣」企業が、その規制対象であるクリプトPACに$1,000万を拠出している――この構図は、資金回路の政治的な厚みをさらに増している。
MAGA候補に集中投資
クリプト系PAC最大手のFairshakeは2024年選挙で両党の候補に幅広く資金投下し、支援候補の高い勝率を記録した。2026年も超党派で$1,200万規模の支援を始めている。
対してFellowshipの初動は、MAGA陣営への集中投資だ。Fairshakeが「業界全体の利益」を旗印に影響力を広げるのに対し、FellowshipはTether関係者が直接操縦する形で現政権側に軸足を置いている。
ただし資金が票に直結するとは限らない。今回最大の支出先であるMorrisは、Polymarketの予測で支持率7.4%(首位のAndy Barrは72%)と大きく水をあけられており、$85万の広告費が実際に差を生むかは不透明だ。クリプト系PACが投資対象の「勝算」よりも「関係性」を優先している可能性も、今後の支出動向を読む上での視点になる。
立法環境における含意
3候補の中で特に注目すべきはRickettsだ。現職議員としての当選確率は高いが、その本質的な意味は別にある。リケッツは上院銀行委員会のメンバーであり、同委員会ではデジタル資産の市場構造を規定するCLARITY Actのマークアップが4月中に見込まれている。
クリプト規制の内容を決める審議の当事者に対して、その規制対象であるTether系PACが資金を投じた――この流れは、単なる選挙支援ではなく、規制形成プロセスそのものへのアクセスを意味する。
CLARITY Actは1月と3月に審議が相次いで延期された。焦点はステーブルコインへの利回り提供の可否をめぐる銀行業界とクリプト業界の対立だ。複数の議員は「5月までに通過しなければ中間選挙の政治日程に飲み込まれ、法案は実質棚上げになる」と警告している。法案は今、正念場を迎えようとしている。
今後の注目点
今回の動きは、業界連合ではなく、特定の事業体の資本と人的ネットワークがステーブルコインをめぐる政治の最前線に配置されたものとして注目される。
宣言された$100Mの全体像は、今後の開示を待つ必要がある。ただし、規制の「設計者」と「受益者」が同じ人的回路上で接続されつつあるとすれば、Fellowship PACの動向は、ルール形成の帰趨、ひいてはどのビジネスモデルが競争上優位に立つのかを読み解く手がかりとなる。







