米国の大手銀行が、暗号資産企業への銀行免許付与をめぐり連邦規制当局の提訴を検討していることが分かった。金融ロビー団体の Bank Policy Institute(BPI)が法的対応を視野に入れているという。英紙ガーディアンが3月9日、関係者の話として報じた。
BPIは、JPMorgan Chase、Goldman Sachs、Citigroupなど米国の主要銀行約40行を代表するロビー団体だ。銀行側は、暗号資産やフィンテック企業に対して銀行ライセンスを与える新しい方針が、金融システムの安定性を損なう可能性があると主張している。
争点は「ナショナル・トラスト銀行免許」
対立の中心にあるのは、米通貨監督庁(OCC)が進める銀行免許の運用見直しだ。 OCCは現在、暗号資産企業や決済企業が「ナショナル・トラスト銀行(national trust bank)」のチャーターを取得しやすくする方針を進めている。この免許を取得すれば、企業は全米50州でサービスを提供できるようになる。
OCCを率いるのは、トランプ政権が任命した通貨監督官のジョナサン・グールド(Jonathan Gould)。暗号資産業界の出身でもある同氏の下で、規制の解釈が見直された。 しかし銀行側は、この制度が「銀行に近いサービス」を提供する企業に対して十分な監督を課していないと反発する。BPIは以前の書簡で次のように警告していた。
「銀行に似た商品を提供しながら、より軽い規制を選択できるようにすれば、”銀行とは何か”という法的境界が曖昧になる」
銀行業界は、この仕組みがシステミックリスクを高め、国家銀行制度の信頼性を損なう可能性があると主張している。
申請企業にはRippleやCircle
すでに複数の企業がこの免許を申請している。
- Circle(NYSE: CRCL)
- Ripple
- Wise
BPIは昨年10月、これら企業の申請を拒否するようOCCに求めていた。しかし規制当局が銀行側の懸念を十分に考慮していないとして、ロビー団体は現在、訴訟を含む法的対応を検討しているという。なお、Circleは昨年IPOを果たした上場企業(NYSE: CRCL)であり、BPIが提訴に踏み切った場合のOCCライセンス審査の遅延・停止は、株価の押し下げ要因となりうる。
トランプ政権のクリプト政策が背景
今回の対立の背景には、トランプ政権の暗号資産推進政策がある。トランプ政権は、暗号資産企業やフィンテック企業を金融システムの主流に取り込む方針を掲げており、OCCのライセンス政策もその一環とみられている。
政治的な火種も存在する。
トランプ一族が関与する暗号資産企業 World Liberty Financial(WLFI)の子会社、WLTC Holdings LLCが今年1月、「World Liberty Trust Company」の設立に向けて同じナショナル・トラスト銀行免許を申請しており、この動きは議会内でも批判を呼んでいる。
先月開かれた上院銀行委員会で、民主党の筆頭メンバー、エリザベス・ウォーレンは、証人として招かれたグールドにWLFIの「無修正の申請書」を提出するよう迫った。
2月、UAE国家安全保障顧問(UAE大統領の兄弟)であるシェイク・タフヌーン・ビン・ザイード・アル・ナヒヤン(Sheikh Tahnoon bin Zayed Al Nahyan)傘下のAryam Investment 1が、トランプ就任直前にWLFIの49%を5億ドルで秘密裏に取得していたことがWSJによって報じられた。その後、トランプ政権はタフヌーンに異例の接近を許し、同氏の会社が先端AIチップを数十万個受け取ることを承認した。バイデン政権がチップが中国に流れるとの安全保障上の懸念から拒否していた輸出ライセンスだった。
OCCの規制では、申請者は設立予定の銀行の直接または間接的に10%以上の株式を保有するすべての主要株主を開示することが義務付けられている。規制が守られているのか、ウォーレンは、トランプの息のかかった当局の下で汚職と利益相反が横行する可能性に警戒している。
ウォール街 vs クリプトの第二戦線
暗号資産をめぐっては現在、複数の戦線で金融業界の対立が広がっている。地域銀行はステーブルコインによる預金流出を警戒し、規制強化を求めている。一方、今回の問題では、ウォール街の大手銀行がフィンテック企業の銀行参入に強く反発している。現在の構図は複数の利害が交差する政治問題となっている。
- 地域銀行 vs ステーブルコイン
- 大手銀行 vs フィンテック銀行免許
- 政権 vs ウォーレンら規制強化派議員
OCCのライセンス政策をめぐる訴訟の動きは、トランプ政権が早期成立を目指すCLARITY Actの審議にも影響を与える可能性がある。


