かつてビジネスパートナーから「ランチを食べるように訴訟する」と揶揄されたこともあるトランプ大統領。これまでに関わった訴訟は5,000件を超えるともいわれるが、15日には新たにニューヨークタイムズ(NYT)を相手に民事訴訟を起こすと発表した。請求額は驚きの約150億ドル(約2.2兆円)にのぼる。
トランプは声明で、NYTを「米国史上最悪で、急進左派民主党の代弁者と化した新聞」と非難。選挙でカマラ・ハリスへの支持表明を紙面で大きく扱ったことが「違法な選挙献金」に当たると主張し、さらに「自分と家族、MAGA運動に対して長年にわたり嘘を広めてきた」と責め立てた。訴えはフロリダ州の裁判所に提出するとしている。
ポリティコによると、被告にはニューヨークタイムズと4人の記者の名が加えられている。このうちのラス・ビュートナーとスザンヌ・クレイグは2024年に共著「Lucky Loser: How Donald Trump Squandered His Father’s Fortune and Created the Illusion of Success」を発売しており、トランプはこれを「虚偽、悪意、中傷的」と非難している。
トランプは昨年以降、メディアを相手取った訴訟を相次いで起こしている。
- ABCニュース司会者の「レイプ認定」発言に対する訴訟では、ABCが約1,500万ドル(約22億円)で和解。
- CBSのインタビュー編集を巡る訴訟も、CBSが約1,600万ドル(約24億円)を支払う形で決着。
- ウォールストリートジャーナルが「エプスタイン宛ての猥褻な手紙」を報じた件では、実物コピーが公開された後も、訴訟は継続している。
いずれのケースも法的根拠は弱いと評され、メディア側優位と見られていた。それでも和解に至った背景には、ホワイトハウスに対する取材制限の懸念や、親会社の企業取引への配慮が指摘されている。実際、CBSとの和解が成立した後、親会社パラマウントのスカイダンス・メディアとの合併を政府が承認した。
勝算の低い訴訟を連発するのは、左派メディアと戦うリーダーを演出して支持者の結束を高める効果や、メディア側に萎縮を与え批判的報道を抑圧する狙いも考えられる。政策上の問題から有権者の注意を逸らす意図も指摘されている。
今回の訴訟の強度は不明だが、SNSでは「他のメディアに対する訴訟と同じ。ジャーナリストを脅迫して汚職が暴かれるのを阻止して、支持者に報道内容に疑問を抱かせることが目的だ」、「北朝鮮タイプの支離滅裂ぶり。この男は退場だ」といった声、「証拠開示が楽しみ」「彼は愚かにもパンドラの箱を開けようとしている」と墓穴を予想するコメントが寄せられている。
また、「今日の記事を読めば、彼がなんでそれほど守勢に立たされているのかわかる」とNYTが同日配信した調査報道記事との関連を示唆する声も上がっている。
この日、同紙は、トランプ政権がアラブ首長国連邦(UAE)の政府系AI企業G42への先端半導体販売を承認したことと、同時期にトランプファミリーの暗号資産ビジネスがG42関連の投資ファンドから巨額の投資を受けていた事実を関連づけ、利益相反の可能性を報じていた。
