BANANA FISH ニューヨーク聖地巡礼ベスト7

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1994年の連載終了から約30年を経てもなお愛され続け、新たなファンを獲得している漫画「BANANA FISH」(バナナフィッシュ)。ニューヨークを舞台にした作品はいくつもありますが、犯罪都市としての闇の部分と、あらゆる人々を受け入れる光の部分との両面を、これほどリアルに描いた作品は他にないのではないでしょうか。

「文庫版に作品解説を寄せた故・坂本龍一氏も、その細部にわたるニューヨークの描写に驚嘆したと絶賛。きっと主人公アッシュ・リンクスという人物の魅力に作者・吉田秋生氏自身が突き動かされ、そのアッシュが生きたニューヨークの真髄を描かざるを得なかったのだろうと解説しています。恐ろしさと美しさを矛盾なく併せ持つアッシュの生き様は、ある意味ニューヨークの街そのものとも言えるかもしれません。

連載当時は世界的な犯罪都市だったニューヨークも、今では全米で最も安全な都市と言われるようになりましたが、そのバイタリティーは健在です。そこでニューヨークに実在するBANANA FISHの名シーンの舞台を選りすぐってご紹介します。

ニューヨーク公共図書館

NYPL
©MashupReporter

漫画史上最高のエンディングとも名高い、図書館でのラストシーンが生まれたのがここ、ニューヨーク公共図書館。英二の手紙に気を取られラオに腹部を刺されたアッシュは、瀕死の状態で図書館へ戻り、読書室で手紙を読み返しながら息を引き取ります。(今思い出しても泣きそうです(T_T))

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最初に登場したのは、アッシュとケンカした英二が仲直りしようと、子分たちにアッシュの居場所を聞いたとき。入り口にライオンの像の立った図書館を案内され、「ボスは一人になりたい時よくここに来る」と教えられました。

アッシュがよく利用していた読書室は、3階の「ローズ・メイン・リーディングルーム」。高い天井のホールの両脇にある書棚には各分野の専門書がずらりと並びます。アッシュはここで学んだ知識を手掛かりに、バナナフィッシュの正体を突き止めました。

住所:476 5th Ave, New York, NY 10018
最寄駅:7 「5 Av」

セントラルパーク

セントラルパーク ニューヨーク 入場制限
©mashupReporter

ゴルツィネが隠し持っていた裏資産を盗み取り、反撃を仕掛けたアッシュは、セントラルパークが一望できる59丁目の高級マンションを購入し、引っ越します。

公園の一画にあるベンチでカシミアのコートに身を包み、静かに読書をする“金髪の美少年”アッシュ。秋口の公園の爽やかな昼時によく似合う気品漂う佇まいに、殺人犯アッシュ・リンクスの行方を追っていた警官も、すっかり騙されてしまうのでした。

南は59丁目から北は110丁目までマンハッタンの中心に広がるセントラルパーク。動物園や植物園、ボート乗り場などがあり様々なアクティビティが楽しめますが、歩道脇のベンチで何気なく本を読んだりして過ごすのも、ニューヨーカーの大事なリフレッシュのひとときです。

住所:W 59th st〜W 110th st

グランドセントラル・オイスターバー

グランドセントラルオイスターバー ニューヨーク
littlenySTOCK / Shutterstock.com

アメリカズ・バンクの副頭取ミスター・ウインストンとその御令息クリス・・・に扮したマックスとアッシュ。マックスの提案でランチに向かった先は、グランドセントラルターミナルにあるオイスターバーでした。食事の傍らアッシュは、ゴルツィネを失脚させた手口、そしてバナナフィッシュの陰謀に関わるマフィアや政界の大物たちを追い詰める作戦を淡々とマックスに語り、IQ200の頭のキレを見せつけます。

「オイスターはあそこじゃなきゃ」とマックスが言うとおり、創業110年の歴史を持つこのオイスターバーは、今もニューヨークのシーフードレストランのレジェンド的存在。アッシュが注文したクラムチャウダーとブルーポイント・オイスターも定番の人気メニューです。ところでマックスは「500グラムのステーキを豚のように」食べるのなら、オイスターバーでなくてもよかったのでは・・・?

住所:89 E 42nd St, New York, NY 10017
最寄駅:4・5・6、7「Grand Central – 42 St」

チャイナタウン

チャイナタウン
©MashupReporter

アッシュとマフィアとの戦いの傍らで独特の立ち位置を担うのが、李家率いる華僑。チャイナタウンもある時はショーターやシンといった味方の、ある時は月龍ら李一族の敵方の陣地として、物語にたびたび登場します。ショーターの実家が経営する中華料理店「張大飯店」では英二がスープをごちそうになったことも。のちに縫製工場に捕らえられた仲間を救出したときには、アッシュたちが「張大飯店」の地下通路を通って工場の地下に忍び込むなど、作戦に重要な役割を果たしました。

「チャイナタウンに目立たず入れるのは東洋人だけ」ということでアッシュはあえて英二に遣いを頼みましたが、これはすでに過去の話。今では漢字の看板がずらりと並んだ通りを白人、黒人、ヒスパニックと人種や文化に関わらず多種多様な人々が、所狭しと行き交っています。

最寄駅:A・C・E、J・N・Q・R ・W・Z・6「Canal St」

自然史博物館

パンデミック期間中、ワクチンワクチン接種会場にもなった自然史博物館。ヒレには絆創膏が貼られています。©NYCMayorsOffice

仲間が逃げ延びる時間を稼ぐため、ハーレムからセントラルパークウエストを走って南下したアッシュは、自然史博物館に逃げ込みます。宿敵・月龍はすぐに追っ手を送りますが、閉館後の真っ暗な館内へ誘い込むのがまさにアッシュの作戦。暗闇と展示物でヒットマンたちを惑わせ、次々と始末しました。

最終的に月龍を捕らえたアッシュがブランカと交渉を行ったのが、1階の「海の生物の部屋」。階段の上で月龍を羽交い締めにしたアッシュが、ホールに立つブランカに向かって人質交換を要求する、まさにあのままの配置に、このシーンがフラッシュバックするファンも多いかもしれません。天井を泳ぐ体長約29mのシロナガスクジラの模型は、博物館のシンボルとして愛され、土産品としても人気です。

ちなみに、「海の生物の部屋」はパンデミック中、ワクチン接種の特設会場にもなり、クジラの下でワクチン接種を受けたいニューヨーカーたちが大勢集まりました。

住所:200 Central Park West, New York, NY 10024
最寄駅:B・C「81 Street – Museum of Natural History Station」

イーストブロードウェイ駅〜コニーアイランド

コニーアイランド
©mashupReporter

オーサーとアッシュ、ボス同士の決戦の舞台となったのは、ダウンタウンにある地下鉄Fラインのイーストブロードウェイ駅。「Fラインは夜中の1時から5時まで運行していない」はずでしたが、ゴルツィネの助力で地下鉄を走らせたオーサーは、車内に多くの手下を潜ませアッシュを狙い撃ちします。

Fラインの行先はブルックリンの南端、コニーアイランド。マンハッタンを出ると電車は地上を運行し、窓からはブルックリンの街並みやマンハッタンの高層ビル群を眺めることができます。物語ではコニーアイランドまで行かずに止まり、高架になった線路上で本当のボス同士の対決が始まりましたが、終点のコニーアイランドはマンハッタンを出てから1時間ほど。米国の歴史登録財にも指定された築96年の木造ジェットコースター「サイクロン」や、独立記念日恒例の早食い大会でも知られるホットドッグの老舗「ネイサンズ」など、ノスタルジックなアメリカのサマーシーズンを楽しめます。

最寄駅:F「East Broadway」

グリニッジビレッジ

Stonewall Inn
©MashupReporter

アッシュが死んで7年―――。1994年のニューヨークで、英二は新進気鋭の写真家として、グリニッジビレッジで暮らしていました。その夏、アッシュと同じ「夜明け」という意味の名前を持つ、伊部の姪の暁(あきら)が英二のもとを訪ね、英二やほぼ同居状態のシン、飼い犬バディとともに夏休みを過ごします。

グリニッジビレッジは、若者文化の発信地として常に活気のある、多様性に満ちたエリア。LGBTQパレードがスタートするきっかけとなった伝説のゲイバー「ストーンウォール・イン」のほか、ジャズの殿堂「ブルーノート」や「ヴィレッジバンガード」があるほか、アートギャラリーや小劇場なども点在し、世界中のアーティストたちに愛されています。「男みたいな」名前でありながら女として生まれた自分を受け入れられずに悩む暁にとって、様々なバックグラウンドの人が同じ目線で暮らすグリニッジビレッジの地域性も、自分の居場所を見つける一つのきっかけになったのかもしれません。

最寄駅:1「Christopher Street」、A・B・C・D・E・F・M「West 4th Street」

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©meeco

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meeco
ニューヨーク在住歴19年のライター兼ディレクター。2013年よりフリーランスのニュースディレクターとして、テレビ、ラジオ、Webメディアでアメリカ情勢やNYローカル情報の発信に携わる。過去には米大統領選、LGBTQの権利論争、不法移民問題などをカバー。得意分野はアメリカの政治、法律、裁判、米政界スキャンダル。映画、ファッションにも興味あり。ニューヨーク市立大学ブルックリン校映画脚本学科卒。