米女子選手が五輪出場禁止 マリファナNGの理由とは?

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東京五輪の米代表選考会の薬物検査でマリファナの陽性反応が出たことで、五輪の出場禁止処分を受けた米陸上女子短距離のシャカリ・リチャードソン(Sha’Carri Richardson)選手(21)。処分をきっかけに、マリファナ合法化の流れが進む中で選手のマリファナ使用を禁じることに疑問の声もあがっている。

リチャードソンは先月末、オレゴン州で行われた米代表選考会の女子100メートルで優勝した。東京五輪の優勝候補と目され、派手なヘアカラーや活発な性格もあって、米代表のスター選手の一人とされたが、薬物検査でマリファナ性反応が出たことが発覚。優勝を剥奪された上、先月28日から1カ月間の大会出場停止処分を受け、東京五輪の個人100m走の出場も停止となった。女子400mリレーには出場する可能性が残っているものの、雲行きが怪しくなっている。リチャードソンは2日、NBCのインタビューで事態を謝罪。マリファナを使用した理由に、選考会の1週間前に母親が死去し精神が不安定だったことを明かした。

ニューヨークタイムズによると、世界アンチ・ドーピング機構(WADA)はマリファナを禁止薬物の一つに位置付けていて、米五輪委員会もこの規則に準じている。WADAによるとハシシ(大麻樹脂)などの関連品を含め「自然生成、合成ともに、いかなるカナビノイド(マリファナに含まれる成分)も禁止している」という。なお、規則は競技期間中に当てはまり、期間外の使用については禁止されていない。

一方、米国ではこれまでに19州と首都ワシントン、グアムで嗜好目的のマリファナ使用が合法化されている。医療目的を含めるとさらに多くの州が認めているのが現状。他にもマリファナが合法化されている国が複数ある中、グローバルスポーツの舞台でマリファナがなぜ禁止されているのか問う声も少なくない。

マリファナがパフォーマンスを高める?

WADAは禁止薬物の基準について、「パフォーマンスを促進する」「健康を害する」「スポーツマン精神に反する」の3項目のうち2つ以上に当てはまるものと定めている。

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WADAは2011年の報告書で、「人間および動物を対象にした研究、運動選手への聞き取り調査、現場からの情報に基づき、マリファナには一部の選手や種目にパフォーマンスを促進する可能性がある」と発表している。マリファナのパフォーマンスへの影響を裏付けた研究は多くはないものの、一部の選手にとってリラックス効果と集中力を高める作用があることが分かっており、反対に、手と目の反射的な協調関係(hand-eye coordination)や忍耐力を妨げることも知られている。

健康の阻害リスクについてWADAは、マリファナを喫煙する選手は「高リスク行動の選択、反射神経の鈍化、精神力・判断力の低下によって、自分や周囲を危険にさらす」と警告している。さらに、スポーツマン精神に反するという点については、「健康に有害で、パフォーマンス促進の可能性がある禁止薬物の使用は、世界の若者たちのロールモデルとしてのアスリートの在り方と矛盾する」としている。

マリファナ禁止の経緯

五輪大会ではWADAの規則を全面的に採用しているが、種目などの要素を問わずすべてに当てはめるのは無理があるとの批判もある。

1998年、長野冬季五輪で金メダルを獲得したスノーボードのカナダ代表、ロス・レバグリアティ(Ross Rebagliati)選手は、競技後の薬物検査で17.8ナノグラムのマリファナが検出されたため、メダルを剥奪された。レバグリアティ選手は受動喫煙によるものと反論。その後、マリファナが禁止薬物に指定されていなかったことを理由にメダル剥奪が撤回され、以降、マリファナが新たに禁止薬物に指定された。当初は15ナノグラムで陽性とされたが、2013年には、マリファナ1mlあたり150ナノグラムと基準を緩めた。

2009年には、競泳の米代表、マイケル・フェルプス選手が水パイプで麻薬を喫煙している写真が出回ったことで、3カ月の活動停止処分を受けた。なお、大きな大会の期間とは重なっていない。

規則緩和の流れ

米陸上連合は五輪組織の一部のため、WADAのドーピングの規則に倣っているが、五輪と直接かかわりのない他のスポーツ関連団体は必ずしもこれに準拠せず、独自のドーピングルールを設定することが可能。実際に、罰則を軽減したりマリファナ禁止の規則を廃止したりする団体も多い。

米プロフットボール(NFL)は昨年マリファナに関する規則を緩和。検査機関はトレーニングキャンプの2週間に限定し、陽性に対する罰則は出場停止ではなく罰金に改めた。メジャーリーグ(MLB)は、2019年にマリファナを禁止薬物の対象から除外。米プロバスケットボール(NBA)は2020-21シーズンからマリファナの抜き打ち検査を取りやめ、米総合格闘技(UFC)では現在、意図的にパフォーマンス促進を狙った場合を除き、選手のマリファナ使用について罰則を科していない。