エプスタインの亡霊に沈んだ駐米大使 ピーター・マンデルソンとは

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Jeffrey Epstein
マンハッタンのジェフリー・エプスタイン宅©mashupNY

トランプ政権が公約を無視して完全公開を拒むエプスタイン・ファイル。その理由は定かではないが、公にされたくない人の一人に、ピーター・マンデルソンの名前も挙げられるだろう。

英国政府は11日、マンデルソン駐米大使を解任したと発表した。声明では、最近報じられた未公開メールの内容に言及。「マンデルソン氏とエプスタイン氏の関係の深さと範囲は、任命時に知られていたものと大きく異なる」と指摘し、被害者への配慮から直ちに解任を決定したと説明した。

ブルームバーグによれば、2005年から2010年にかけて交わされた未公開メール100通の中に、2008年にマンデルソンがエプスタインの未成年買春有罪判決を嘆き、団結を示す文面が含まれていた。メールには「私はあなたを尊敬している。今回の件には絶望と怒りを感じている。いまだに理解できない。英国では決してありえないことだ」などと記されている。

 この数日前に米下院監視委員会の民主党が公開した「バースデーブック」には、2003年にエプスタインの50歳を祝う10ページにわたる手紙が収録されていた。「彼がどこにいようとも私の“親友”だ」と手書きされ、ミステリアスな男性、知性や機知に富んだなどの表現も見られた。さらにエプスタイン所有のプライベート島でで過ごす写真も添えられている。

The Committee on Oversight and Accountability Democrats

 エプスタインといつ知り合ったかについては定かではない。英紙テレグラフによれば、ギレーヌ・マクスウェルが二人を引き合わせたとされる。マクスウェルとは同じ社交会を出入りし、ギレーヌの兄イアンは、マンデルソンは1980年代後半、父ロバート・マクスウェルの経営するメディア企業ミラーグループにコンサルタントとして関与していたと明かしている。 イアンは、互いに社交的なマンデルソンとギレーヌは、親しいと言えなくとも良い友人だっと回想している。

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 エプスタインとの親密な関係は以前から報じられていた。テレグラフによると、JPモルガンチェースは、2019年の内部調査報告書で、マンデルソンはエプスタインと「特別近い関係だった」と報告している。エプスタインがフロリダの刑務所に服役する間、同氏のニューヨークにある自宅に滞在したこともあったという。 さらに同紙は、資料にはエプスタインが長年にわたって公職の内外でマンデルソンに助言や指導を与えていたことが示されているとも指摘している。 

マンデルソンは1980年代初頭に政治報道番組のプロデューサーを務めたのち、1985年に労働党の党首ニール・キノックによって「コミュニケーション担当ディレクター」に任命され、旧来的な社会主義から「中道路線」へのイメージ変革を推進。若手のホープ、トニー・ブレアやゴードン・ブラウンのスター化をはかり、90年代に「ニュー・レイバー(New Labour)」としてブレア政権誕生につながる布石を作った。

1992年にイングランド北東部のハートルプール選挙区から労働党の下院議員(MP)に初当選。1997年総選挙で労働党が政権復帰し、トニー・ブレアが首相になると、中級の閣僚に任命され、翌1998年には貿易産業大臣として内閣に昇格した。 

政治キャリアはスキャンダルに象徴される。1998年12月、同僚の閣僚からの借金で家を購入し、その事実を公式に開示しなかったことが発覚。辞任に追い込まれた。翌年にブレア首相により北アイルランド担当大臣に任命され表舞台に復帰するも2001年にインド人実業家への英国パスポート発給に不適切な介入をはかった疑惑で再び辞任した。ただしブレアの信頼は厚く、2004年にEU委員会の英国代表として欧州委員(貿易担当)に就任した。2008年に欧州委員を退き、ブラウン内閣にビジネス大臣として参加。2010年の労働党政権敗北により閣僚職を失った。 

ブルームバーグの入手したメールは、EU委員とその後のブラウン政権閣僚時代にかさなる。 

さらにテレグラフは今週、入手メールをもとに、マンデルソンがビジネス大臣時代、2008年の金融危機以降部分的に国有化されていたRBS(Royal Bank of Scotland)のエネルギー部門をJPモルガンに売却する案件をめぐり、エプスタインから助言を受けていたと報じている。 

エプスタインは、マンデルソンを当時JPモルガンの幹部だったジェス・ステイリーに紹介したともいう。ステイリーはエプスタインが性犯罪者となった後もJPモルガン内部でエプスタインとの取引継続を強く働きかけた人物で、ニューヨークタイムズによると、エプスタインから性的虐待を受けたとする女性と性行為をしたことを認めている。 

マンデルソンは2010年に政界を退くと、コンサルタント会社「Global Counsel」を設立し、人的ネットワークを活かして国際ビジネスへの関与を深める。 

英紙ガーディアンは2022年の記事で、マンデルソンがロシアのオリガルヒとのコネクションを使ってマネタイズしていると報じている。Global Counselは2015年から2016年にかけてUberの顧問として秘密裏に活動し、ロシア政府高官や有力企業家との仲介を行ったという。マンデルソンは、ウクライナ戦争をきっかけに制裁対象となったオルグ・デリパスカなどオリガルヒと長年親しい関係にあるという。 

そのほかにも、Global CounselはTikTokやShienといった中国ビジネスとの関係が取り沙汰されている。現在は、NHS(国民保険サービス)とソフトウェアプラットフォームの提供契約を進めるピーター・ティールのデータ企業「パランティア」やイーロン・マスクのスペースXのパートナーであるベンチャー・キャピタル「セコイア・キャピタル」をクライアントに抱えている。 

マンデルソンは駐米大使就任を前にGlobal Counselの取締役の座を降りたが、登記上は25%超の株式を保有する「重要な支配権を持つ人物」であり続け、駐米大使就任には利益相反の懸念も指摘されていた。 

マンデルソンは10日、The Sunのインタビューに応じ、2008年以降もエプスタインとの関係を継続したことを「極めて深く後悔している」と吐露。「彼の嘘に騙された。彼の起訴に関して本人から受けた説明や保証を、他の多くの人たちと同様に鵜呑みにしてしまった」、「何年も経ってから、彼を信じたのは間違いだったと気づいた。彼はカリスマの嘘つき犯罪者だったのだ」と釈明した。 しかしながら関係解消を拒んだ真の理由はそれだけだろうか。解任で幕引きを図った形だが、波紋はなお広がりそうだ。