この夏のブロックバスター法廷劇が急展開しそうだ。──主役は、ドナルド・トランプ大統領(78)と、メディア帝王ルパート・マードック(94)。
ことの発端は7月17日、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が報じた一本の記事。内容は、2003年にトランプがジェフリー・エプスタインに宛てたとされる「猥褻な手紙」の存在。しかも、トランプ本人の署名入りだという。
これに激怒したトランプは、翌18日、WSJと親会社ダウ・ジョーンズ、そしてそのオーナーであるマードックを名誉毀損で提訴。10億ドル超の巨額の損害賠償を求めている。
さらに28日には、トランプの弁護士がフロリダ南部地区の連邦裁判所に、証拠開示の迅速化を申し立てた。その理由の一つに、マードックの高齢と健康状態が挙げられている。
「マードック氏は94歳で、長年にわたり健康問題を抱えており、最近も深刻な懸念があるとされる。ニューヨークに居住していると見られ、これらを総合すると、裁判で対面による証言が困難となる可能性が高い」
と、申し立てでは述べられている。トランプ側は、マードックの証言を“今のうちに”録取するよう、15日以内の対応を裁判所に求めている。
一方、ダウ・ジョーンズ側は勝訴に自信満々。公人に対する名誉毀損訴訟は極めてハードルが高い。トランプは、WSJの記者の悪意を立証しなければならず、専門家の多くはマードックに分があると見ている。
だが、作家マイケル・ウォルフは違う角度から見る。デイリービーストのポッドキャストで彼は「トランプにとって訴訟は必ずしも勝つことではない」と指摘。「メディアのヘッドラインを飾り、自分こそが道徳的に正しいと世間に示すためだ」と加えた。同氏はまた、トランプはマードックの先が短いことを見越して、後継者ラクラン・マードックならばすぐに和解を望むと考えている可能性もあると語った。
かつての個人弁護士マイケル・コーエンもMSNBCの番組で、「マードックは最終的に和解に応じるだろう」と予測する。最近、トランプがCBS(パラマウント傘下)を相手に起こした訴訟が和解に至ったが、背景には、スカイダンス・メディアとの合併を円滑に進めたいパラマウントのビジネス判断が働いたと見られている。
結局のところ、トランプは世界一の権力者。経営者にとっては、“喧嘩”より“商売”が優先されるのが現実だ。
そもそも、マードックとトランプの関係は長年にわたり複雑だ。FOXニュースやNYポストなどマードック傘下のメディアは、トランプの名声を築くうえで大きな後押しとなってきた。一方、FOXニュースの視聴者層の多くは、今もトランプ支持層だ。
94歳と78歳──二人の巨頭による老練すぎる抗争。これが最終章になるのだろうか。