ロシアのプーチン大統領は30日、ウクライナの東部にあるドネツク人民共和国、ルハンスク人民共和国、ザポリージャ州、ヘルソン州を併合する文書の調印式を行なった。

調印に先駆けて行なった約30分におよぶ演説では、軍事侵攻および併合の正当性を主張するとともに、陰謀論めいた主張を交えつつ、西側諸国、とりわけ米国をウクライナ紛争の「真のハンドラー」だとして、批判を展開した。

プーチン氏は、西側は、ロシアを「攻撃、弱体化、分割」しようとしており、その背景にある動機は「新植民地主義システム」を維持し、そこから得られる利益を獲得し続けることと主張。このシステムについて「西側が世界に寄生し、世界から略奪し、人類から年貢を集め、繁栄の主たる源を絞り取ることを可能にするもの」と説明し、「独立国家、伝統的な価値観、オーセンティックな文化」を攻撃するのはこのためだと語った。

続けて「西側諸国が、ロシアに対して繰り広げるハイブリッドな戦争は、支配を維持するがための貪欲と決意に起因する」と言い換え、「彼らはわれわれが自由になることを望まず、植民地にしたいのだ。対等な協力を築きたいのではなく、略奪したいのだ。われわれを自由な社会ではなく、魂のない奴隷の集合体にしようと考えている」と非難した。

さらに「西側エリート」は国家主権を否定するだけでなく「彼らの覇権は、全体主義と先制政治、アパルトヘイトの特徴を表している」とした上で、「いわゆる文明化された国々と、今日の西側の人種差別主義者が、野蛮人に分類するべきだとしている、その他の国々」といった従属関係に分割していると主張。「目新しいことではない。西側エリートは、入植者と同じであり続けている。人類を差別し、トップ層とそれ以外に分割している」と述べ、「われわれは、このような政治的ナショナリズムと差別主義に同調することは決してない」と語った。

ワシントンポスト紙は、今回の演説を含む、プーチン流の西側非難の背景には、ロシアで広く支持されている「ゴールデンビリオン説」があると指摘している。

ゴールデンビリオンは、ソ連崩壊間近の1990年に出版された「世界政府の陰謀:ロシアとゴールデンビリオン」という本から来た言葉で、この中で、裕福な西側エリートは「生態系の変化や世界規模の災害が、資源をめぐる競争を引き起こし、最終的に世界には10億人を除いて住むことのできないものになる」と認識ており、豊富な天然資源を持つロシアを、あらゆる手段を高じて支配下に置かなければならないと考えているといった内容が記されているという。

著書は、1700年代後半にトマス・ロバート・マルサスが人口論で展開した人口過剰に関する考えに、ロシア版の現代的ひねりを加えたものだという。ニューヨーク大学のエリオット・ボレンスタイン教授は2019年の著書で、「貪欲な西側から天然資源を守る必要性や、西側による若者のモラル喪失、ロシア経済や公衆衛生の破壊」といったポストソ連のロシアのお約束的な言い回しを、大祖国戦争などの歴史に科学、擬似科学を組み合わせた説得力のある物語の中に、寄せ集めたものと評している。

著者のAnatoly Tsikunov氏は出版の翌年に不審な死を遂げたが、ロシアの反リベラルの知識人Sergey Kara-Murza氏などが、怪しい部分を削り、ゴールデンビリオンを、世界の資源を不均等に消費するOECDやG7のような高所得国家の人口だと説明するなどして、広まっていったという。

発刊から30年経った現在、ゴールデンビリオン説は、政府関係者らの間に浸透しており、ロシア前大統領のメドベージェフ安全保障会議副議長や、一部でプーチンの後継者と目されるニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記もインタビューなどで、同様の考えを口にしている。

プーチン氏自身は、7月に開催された会合で「ゴールデンビリオンと呼ばれる全体支配モデルは、アンフェアだ」と直接言及。「なぜゴールデンビリオンが、すべての人々を支配し、独自の行動ルールを課すのか。一流と二流の人々に分割するもので、本質的に人種差別的で新植民地主義的だ」と主張しつつ、「根底にリベラルイデオロギーのあるグローバリストは、ますます全体主義的な特徴を有するようになっている」など、今回の演説に通じる話しをしていた。