ニューヨーク州 新保釈制度に見直しの声

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憎悪犯罪の増加を背景に、1月1日から改正されたニューヨーク州の保釈制度に見直しを求める声が上がっている。

昨年12月、ニューヨーク市ではユダヤ人に対する9件の憎悪犯罪が立て続けに発生した。28日にはニューヨーク州郊外のロックランド郡モンシーで、ハヌカを祝っていたユダヤ教徒の指導者宅に男が押し入り、なたで5人を刺す事件が発生した。

このうち、27日にクラウンハイツで3人のユダヤ人女性を殴り、反ユダヤ的な言葉で中傷したとして逮捕、起訴されたティファニー・ハリス容疑者(30)は、保釈金なしで身柄を解放された。しかし、その翌日に同様の暴行事件を起こして逮捕、再び保釈された。さらに31日、ブルックリンの裁判所は、ハリス被告が裁判所の命令に従わず、ソーシャルワーカーとの面会を完了しなかったとして逮捕状を発行。同日、再び拘束された。面会は保釈の条件の一部だったという。

昨年、ニューヨーク州では刑事司法制度改革の一環として、保釈金制度の変更を含む改正法案が成立した。ニューヨークタイムズによると、新制度のもと、ストーカー、重傷以外の暴行、多くの薬物犯罪、さらに特定の放火や強盗を含む、ほとんどの軽犯罪と暴力行為以外の重罪について、裁判官は保釈金を設定することができなくなった。これらの罪の被告人は公判まで保釈金なしで身柄が解放される。

議員ら変更の必要性に言及

ニューヨーク州議会上院の多数党トップのアンドレア・スチュアート・クーザン(Andrea Stewart-Cousins)議員(民主)はCBSのインタビューで制度変更の必要性を聞かれ、「調査の必要がある」と発言。「制度の改正について調べたいと思うが、制度を正すことを確実にしたい。みなさんと同様に、これらの憎悪犯罪について懸念している」と述べた。

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トッド・カミンスキー(Todd Kaminsky)上院議員(民主党)は「疑いの余地はない。ここでじっとして、憎悪犯罪について不寛容政策を欲している場合じゃない」と検討の必要性を述べた。

ニューヨーク州選出のリー・ゼルディン(Lee Zeldin)下院議員(共和党)はティファニー・ハリス被告の件を受け、「ニューヨークの保釈改正は大失敗だ」とツイート。「弱さや無知、迎合では反ユダヤ主義の暴力の上昇を阻止することはできない」と述べた。

2日にニューヨーク市のユダヤ教指導者と会合を行ったビル・デブラシオ市長も変更の必要性を主張した。

市長は「とてもよい改正をしたが、まだやらなければならないことがある。」と述べ、「とくに、周りのコミュニティに脅威を与えるかどうかについて裁判官が判断し、それもとづいて裁判官が実行する権限を与えることが必要だ」と語った。

ニューヨーク州では、裁判官に対し、公共の安全に対する脅威があるかどうかを判断し、被告人の拘束を決定するといった裁量を与えていない。

一方、保釈金を廃止または使用を制限しているニュージャージー州のような州では、公共の安全を守るために、別の犯罪の危険のある被告人を拘束するシステムが確立されているという。

なお、ニューヨーク州では1970年代以降、保釈金の決定に際し、裁判官は逃亡の危険のみを判断するものとされていたが、実際には逮捕歴や別の犯罪の可能性を考慮し、保釈金を高くするなどの裁量があった。

制度改革の影響

保釈金は、刑事司法が経済的弱者に不利に働くものとして、長らく非難されており、2015年のカリーフ・ブラウダーさんの自殺をきっかけに改正を求める声が強まっていた。

2010年に16歳で窃盗容疑で拘束されたカリーフ・ブラウダーさんは、家族が3,000ドルの保釈金を用意できず、ライカーズ島の施設に3年間拘留された。その間に、精神疾患を発症し、少なくとも6回の自殺未遂を図った。不起訴により施設から釈放されたが、2015年、22歳の時に自殺した。

また2019年6月には、トランスジェンダーの女性レイリーン・ポランコ(Layleen Polanco)さんが独房に監禁中、てんかんの合併症で死亡した。ポランコさんは、500ドルの保釈金が払えなかったため、拘留されていた。

ジョン・ジェイ・カレッジの調査によると、仮に2018年に同法が適用された場合、ニューヨーク市単体では、実際の保釈金なしのケース(約10万5,000件)に加え、2万人以上が保釈金なしで身柄を解放されただろうと試算している。またニューヨークタイムズは、勾留施設で公判を待つ人々のうち、改正により数千人が自動的に保釈されるほか、今後、新たな被告人の90%が公判中の身柄拘束を免れると報じている。