米陸軍は23日、小型ドローン量産計画「SkyFoundry」向けのレアアース磁石の供給元に、米新興企業Vulcan Elementsを選んだ。中国が輸出規制を強めるなか、米国は兵器や産業の「心臓部」となる磁石の確保を安全保障上の重要課題と位置付け、国内供給網の確立を目指している。今回の選定は、米国の「脱・中国依存」に向けた取り組みの実効性を占う上でも注目される。
陸軍が求めた「完全国内・垂直統合」
Vulcanの発表によると、同社はネオジム・鉄・ボロン(NdFeB)磁石を供給し、ドローンを動かすブラシレスDCモーターに使われる。陸軍が入札で重視したのは「完全に国内で完結する、垂直統合型の製造工程」で、既存顧客による実績評価も課された。国防総省との契約は同社にとって通算10件目という。
一方で、発注数量、金額、納期は開示されていない。
SkyFoundryは陸軍資材コマンドが主導する計画で、ペンシルベニア州のトビーハンナ陸軍補給廠を拠点に、年100万機の小型ドローンを米国内で生産することを目指す。起点は、ヘグセス国防長官が2025年7月に出した覚書「Unleashing U.S. Military Drone Dominance(米軍ドローン優位の確立)」だ。同じ7月にはクルーズ上院議員らが「SkyFoundry法案」を提出したが、審議の見通しは立っていない。法案の成立を待たずに、陸軍が既存の権限で先行している形だ。
なぜ磁石なのか
ネオジム磁石は小型で強力なモーターに欠かせない。軍用ドローンだけでなく、EV、風力発電、データセンターの冷却設備、ロボットにも使われる。コンサルティング会社アーサー・D・リトルは、米国の需要が2040年まで年8.9%で伸び、2030年前後には世界的な供給不足が生じると予測する。
問題は、その供給を中国が握っていることだ。中国は採掘の6~7割、分離・精製の約9割を担い、2023年12月には分離技術そのものの輸出も禁じた。
輸出規制は段階的に強まり、米国を狙い撃ちにする措置も出てきた。2025年4月には、ジスプロシウムやテルビウムなど重希土類7元素と関連磁石の輸出を許可制にした。同年10月には、中国産レアアースを価格の0.1%以上含む海外製品にまで許可を求める措置などを発表した。10月の措置は米中首脳会談を受けて2026年11月10日まで停止されているが、4月の許可制は停止の対象外で、今も続いている。
2026年6月には米企業10社を輸出管理リストに加え、中国産の軍民両用品を第三国経由でも供給できないようにした。対象には、政府支援を受けて採掘から磁石までの一貫生産を目指すMP Materials(NYSE: MP)とUSA Rare Earth(NASDAQ:USAR)に加え、Red Cat(NASDAQ: RCAT)など米軍向けドローン関連企業も含まれる(Vulcanは入っていない)。8月5日には、管理リストに載るドローンや主要部品、関連技術の米国向け輸出を案件ごとに厳しく審査し、手続きの簡素化も認めないと発表した。
「脱中国」に浮かぶ課題
Vulcanは、自社を「素材、技術、ソフトウェア、知的財産、資本のすべてで中国から切り離された、世界で唯一の磁石メーカー」と説明する。ただ、工程ごとに見ると課題は多い。
まず規模だ。同社は現在、ノースカロライナ州ダーラムの小規模工場で磁石を作っている。下院民主党の書簡によると、2025年夏時点の従業員は約30人、年産能力は約10トンだった。同州ベンソンに建設中の新工場は年1万トンを計画しており、実現すれば中国以外で最大の磁石工場となる。約1000倍への拡大だが、フル稼働の時期は示されていない。
次に原料だ。Vulcanは中流工程を担うReElement Technologiesから高純度の酸化物を受け取る計画で、2025年11月には両社への政府融資がセットで発表された。ところが、国防総省の審査でReElementの事業拡大能力に疑問が出され、同社は2026年7月に8000万ドルの融資手続きから撤退した。国防総省は3日後、別の枠組みで2500万ドルの出資を発表している。
Vulcanは他にもUcore(OTCMKTS: UURAF、2027年にルイジアナから供給開始予定)やEnergy Fuels(NYSEAMERICAN: UUUU)と調達の話を進めているが、今回の陸軍向けにどの原料を使うのかは明らかにしていない。高性能磁石に必要なジスプロシウムやテルビウムといった重希土類は、特に中国への依存が大きい。その調達先も見えていない。
トランプ流産業政策への懸念
Vulcanは、政府の産業政策手法の是非という観点からも注目される。
トランプ政権では、国家安全保障を理由に特定の企業に巨額の融資を提供するだけでなく、株式やワラントを取得する政策を進めている。
Vulcanもその一つだ。2025年11月、国防総省の戦略資本局(OSC)が6億2000万ドルの条件付き融資とワラント(株式を取得する権利)を、商務省が5000万ドルの出資の意向を示した。OSCの融資としては当時最大規模だった。
こうした手法は、一部で「国家コーポラティズム」との批判を生んでいる。民間市場で通用するコスト競争力が十分に育たず、長期的な「産業の自立」にマイナスになる懸念や、事業が失敗した場合の納税者負担、政府が支援企業を「潰せない」リスクなどが指摘されている。
さらに、Vulcanのファンディングにはトランプ家も関わっている。同社は2025年8月、6500万ドルの資金調達を実施し、トランプ大統領の長男ドナルド・トランプ・ジュニア氏が関わる投資会社1789 Capitalも出資した。OSCと商務省の支援が発表されたのは、その約3カ月後だった。
この融資をめぐり、ProPublicaは、ナバロ大統領上級顧問が国防総省に融資案件を進めるよう求め、通常より速いペースで処理されたと報じている。民主党議員はこれを問題視し、資料提出や調査を求めている。一方、Trump Jr.側、Vulcan、1789 Capital、国防総省はいずれも、政治的な優遇はなかったと説明している。
仮に政府による企業支援の選定に政治的なつながりが影響するようになれば、公平な市場競争を阻害し、より優れた技術を持つ企業の参入意欲を削ぐリスクがある。さらに、政府支援を受けた企業への政治的な疑念がスキャンダル化すれば、政権交代や議会の権力構成の変化によって政策の継続性が揺らぐ可能性もある。
今後の注目点
陸軍の選定は、Vulcanの製品が軍の性能基準を満たしたことを示しているが、安定的な国内供給体制が整ったわけではない。
今後は、陸軍との契約数量や金額が明らかになるか、ベンソン工場がいつ稼働するか、ReElementに代わる原料や重希土類をどこから調達するかが焦点となる。11月10日に期限を迎える中国の規制停止が延長されるかも、供給網づくりの前提を左右する。
年100万機のドローンという生産目標に対して、磁石の生産能力と原料供給網をどこまで拡大できるか。今回の選定は、そのサプライチェーンが実際に動き始めるかを見るテストになる。




