世界がAIによって急速に変化する今、「これほど起業家にとって好機な時代はない」——。3日、イタリア北部トリノで開催された「イタリアン・テック・ウィーク」に登壇したアマゾン創業者ジェフ・ベゾスは、エクソールCEOジョン・エルカンとの約1時間にわたる対談の冒頭でそう断言した。
AIをはじめとする新技術の波は、既存企業の優位を脅かす一方、俊敏で革新的なスタートアップにかつてないチャンスをもたらしていると指摘。「安定期は現職に有利に働くが、大変動期は小さく機動力のあるスタートアップに分がある」と語った。
その上でベゾスは、こうした時代こそ「長期的思考(long-term thinking)」が欠かせないと強調した。何が変わり、何が変わらないのかを見極め、不変の要素を土台に戦略を組み立てるべきだという。アマゾンにとってそれは「迅速な配送」と「低価格」という顧客ニーズであり、「10年後も20年後も変わらない」と説明した。「ビジョンには頑固に、細部には柔軟に」との信条も紹介し、顧客中心の理念を据えつつ手段は技術や競争環境に応じて適応させれば良いと語った。
後半では、現在のAI市場について、「産業バブル」を経験しているとの見方を示した。ただし、AIは「実在的」であり、この点で虚構の「金融バブル」と区別されるという。まだ製品もない少人数の新興企業に巨額の資金が流れ込むのは異例だが、技術の進化と淘汰を促す健全なプロセスであり、「90年代のバイオテクノロジー産業と同様、最終的には勝者が生まれ、社会は計り知れない恩恵を受ける」との展望を示した。
「長期的思考」はベゾス氏の経営哲学の根幹にある。1997年の株主向けレターでは、「It’s All About the Long Term(長期がすべて)」と記し、長期的な市場リーダーの地位固めのためにウォール街の評価に反する意思決定や価値判断を行う場合があると投資家に理解を求めた。四半世紀を経た今も、その信念は揺るがず、AIが産業構造を塗り替える時代において一層の重みを増している。