「認知機能の衰えを示すサインが現れている」──トランプ大統領(79)に対してそんな懸念が専門家から寄せられている。
コーネル大学で臨床心理学を教えるハリー・シーガル博士は、最近のトランプの言動に知的面での衰弱を示す複数の特徴があると述べる。
シーガル博士は英紙ガーディアンのインタビューで、トランプが会話の途中で突然話題を変える傾向について、「考えなしに話が脱線し、自己制御せず話題を切り替えて、筋の通った話の流れを持たない」ことの例だと指摘。さらに、本人に嘘をつくつもりはなくても、記憶の空白を埋めるように事実でないことを語ってしまう──『コンファビュレーション(作話)』の兆候が見られると語った。
最近の具体例としては、スコットランドで行われた欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長との会談中に、移民について話していたにもかかわらず突然、風力発電の風車についての不満を約2分間にわたり語ったことがある。
また、テキサス州の洪水やウクライナ・ガザの戦争、イランへの爆撃といった重要な問題を話し合うために集まった閣僚会議では、最後の約10分間、会議室の内装に関するまとまりのない話を続ける様子が見られた。
作話については、ピッツバーグでのビジネスリーダーとの会合が挙げられる。
トランプ氏は席上、マサチューセッツ工科大学(MIT)の教授であった叔父が、連続爆破犯ユナボマーことセオドア・カジンスキーの教師だったと発言し、周囲を驚かせた。
「カジンスキーは彼の生徒だった。狂人と天才の間にはほとんど差がないんだ。でもカジンスキーは…。あるとき、『彼はどんな学生だったの、ジョンおじさん?ジョン・トランプ先生、どんな学生だった?』って私が尋ねたら、彼は言ったんだ。『本当に優秀だった。彼はみんなを訂正して回っていた』と。でも、うまくいかなかったんだなあ…」
懐かしそうにこう語ったトランプだが、実際のところカジンスキーが通ったのはハーバード大学とミシガン大学。MITに在籍した記録はない。しかも叔父のジョン・トランプは1985年に他界しており、カジンスキーがユナボマーとして逮捕されたのは1996年。辻褄は合わない。
トランプ氏の異変を指摘するのはシーガル博士だけではない。心理学者のジョン・ガートナー博士も6月25日、ポッドキャスト『The Dean Obeidallah Show』で「語彙の衰えや発話の乱れ」を指摘し、次のように語っている。
「今、彼は本当に考えを最後までまとめるのに苦労している。これは大きく悪化している証拠だ。語彙力も衰えている。さらに、フェネミック・パラファジアと呼ばれる認知症の兆候も見られる」。
フェネミック・パラファジアとは、本来の単語を似た音の別の単語や非単語に置き換えてしまう言語障害の一種だという。例えばトランプが軍事パレードで「Infantrymen(歩兵)」と言うところを「infree men」と言い間違えた例などが該当する。
シーガル博士と同様にコンファビュレーションが見られることを認め、さらに、身体的な特徴からも特定の認知症の可能性があると指摘する。
注目すべきは、トランプの歩行に関する特徴で、右足が半円を描くように振られる「レッグスイング」という歩き方が見受けられる。これは、前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia)という認知症の診断において非常に特徴的なサインなのだという。
ガートナー博士はまた、政権のメディアに対する威圧的な姿勢もたらす萎縮効果にも懸念を示し、以下のように語った。
「彼はあらゆるメディアを威圧している。メディアは彼を非常に恐れている。認知機能の衰えに一切触れることを、さらに強く怖がっている。私たちの目の前で起きているのに、みんながそれを見て見ぬふりをしてしまう」。
もともと散漫な話し方をシェイクスピアやディケンズ並みの技巧だと持ち上げたり、認知機能テストの“満点”を誇るトランプ大統領。話を盛ることや虚偽の発言が多い(1期目だけで3万回以上の虚偽発言があったと報じられた)ことでも知られる。現在、議会ではバイデン前大統領の認知機能についての検証が進んでいるが、一方のトランプ自身──そして世間すら気づいていない“何か”が進行しているのかもしれない。