“道徳的逃避”──ジェームズ・キャメロン監督、『オッペンハイマー』の原爆描写を批判

23

「彼が何を避けたのか興味深い。私は映画の出来は好きだが、少し道徳的に回避した印象を受けた」

『アバター』『タイタニック』『ターミネーター』など数々の大作を手がけてきたジェームズ・キャメロン監督が、クリストファー・ノーラン監督の『オッペンハイマー』(2023)に対し、原爆の惨禍を描かなかった点を問題視する発言を行った。発言は『デッドライン』のインタビュー内でのもので、現在彼が企画している新作とあわせて注目を浴びている。

キャメロンは、チャールズ・R・ペレグリーノによるノンフィクション『Ghost of Hiroshima』(2025年8月刊行予定)を原作にした映画を計画している。ペレグリーノは、過去に『タイタニック』『アバター』でもキャメロン作品に関与しており、今回も深い協力関係がうかがえる。

キャメロンはインタビューで、ノーラン作品を一定の評価をしながらも、「作品には、主人公オッペンハイマーが聴衆とともに焦げた遺体を見る短い場面が一つだけあり、彼がそれに動かされた様子が描かれている」と指摘。「私は主題を避けたと感じた」と述べた。「それを避ける決定がスタジオによるものか、ノーラン自身の判断かは分からないが、私はそこに真正面から向き合いたい」と語っている。

企画中の新作についてキャメロンは、「二つの爆弾が投下された日とその直後に焦点を当てたい」と述べ、「こうした兵器が何をもたらすのかを、いま再び人々が思い出すことがとても大切だ」と続けた。作品は原爆投下の政治的是非には踏み込まず、実際に起きた出来事の「中立的な証人」として残したいと語る。「私たちが忘れ、未来の世代に何千倍もの重荷を負わせるのなら、あの死は無駄になってしまう」と目的を説明した。

Advertisement

また、キャメロンは広島と長崎で被爆した“二重被爆者”として知られる山口彊(つとむ)さんに生前面会したエピソードにも触れ、「義務を受け入れ、バトンを受け取るよう促されたと感じた」と述懐。山口さんはその面会の数日後、90代半ばで亡くなった。

『オッペンハイマー』はアカデミー賞で作品賞を含む7部門を受賞し、世界的に高い評価を受けた。一方で、原爆の被害を明示的に描かなかったことについては、当時から一部で批判の声もあがっていた。

映画監督スパイク・リーは、ワシントン・ポスト紙の取材で「3時間もある映画なら、私なら日本の人々に何が起きたのか、少し時間を割いたと思う。人々は蒸発し、今も放射能の影響で苦しんでいる。彼(ノーラン)にはそれを描く権限があったはずだ」と語っている。

一方、ノーラン監督自身は、2023年の『エンターテインメント・ウィークリー』誌の取材に対し、自身の作品は、あくまでオッペンハイマーの視点からの「主観的」な物語であり、観客が見る世界も彼と同じように限定されていると説明している。

「オッペンハイマーもまた、世界と同じタイミングで事実を知った人物だ。自分の行いの予期せぬ結果について、だんだんと認識を深める姿を描きたかった。何を描くかと同じくらい、何を描かないかも重要だった」。