3,000人近くの命を奪ったアメリカ同時多発テロ事件から22年目を迎えた9月11日、ニューヨークのワールドトレードセンター跡地のメモリアルプラザで追悼式典が行われた。
遺族らとともにカマラ・ハリス副大統領、チャック・シューマー上院院内総務(民主党 ニューヨーク)、ニューヨークのキャシー・ホークル知事、エリック・アダムス市長らが参列。8時46分に黙祷と共に始まり、約4時間にわたって犠牲者の名前が読み上げられた。ニューヨークのグランドゼロでは2753人が死亡し、そのうちの343人は消防隊員だった。
2011年に海軍特殊部隊によって首謀者ウサマ・ビンラディン容疑者は殺害されたが、アルカイダの幹部で主犯格とされるハリド・シェイク・モハメドを含む5人の被告は、事件から22年が経った現在もキューバのグアンタナモ海軍基地にある収容キャンプに収監されている。軍事法廷による正式な審理の日程は定まっていない。
5人は現在の殺人やテロの罪などの罪状について2012年に罪状認否を受けたが、CIAによる「強化尋問」が足枷となり公判前手続きが大幅に遅れている。
国内法の及ばない軍事法廷で、弁護側は、グアンタナモ収容所に到着する前にCIAが被告らに行なった「強化尋問」に関する情報の完全開示を求めてきたほか、グアンタナモ収容所に到着後、被告らがFBI取調官に提供した供述は汚染されているとして証拠からの除外を要求している。一方検察側は、裁判は9/11事件における被告の役割に関するもので、その後被告らに行われた内容は無関係として、情報開示の要求に反論。グアンタナモ収容所で行われたFBI取調官による尋問は合法的な手段を用いており、供述は法廷で認められるべきだと主張している。
5人はグアンタナモに移送される前の数年間、CIAの「ブラックサイト」と呼ばれる世界各国に設置された秘密の刑務所に収容され、「強化尋問」プログラムの対象とされた。水責めや睡眠剥奪などの手法を用いた同プログラムは今では禁止されており、人権団体や弁護団は拷問に等しいと厳しく非難している。議会上院の委員会は2014年に公表された報告書で、米国の法律、国際条約、米国の価値観に違反したと結論づけた。
軍事委員会そのものが抱える問題も裁判の前進を阻害した。2001年にブッシュ大統領により設置された軍事委員会について、最高裁はジュネーブ条約に違反しており、議会の承認を欠いた同法廷は違法と判決を下した。これを受けて2006年に議会で軍事委員会法が制定された。法案は2009年に修正が加えられ現在にいたる。グアンタナモ収容所の閉鎖を約束したオバマ大統領は、被告らを本土に移送し、連邦裁判所での裁判を目指したが、議会によって阻止された。
ハリド・シェイク・モハメド被告とは
飛行機による攻撃を構想しテロ事件の首謀者とされる。ニューヨークタイムズによると、ハイジャック犯の訓練を含む一連の計画を1996年にウサマ・ビンラディン容疑者に提案し、監督した。2003年3月にパキスタンで拘束され、CIAのブラックサイトで183回におよぶ水責めなどの「強化尋問」を受けた。
上院の調査報告書によると、モハメド被告は最初、コードネーム「COBALT」と呼ばれるブラックサイトに収容された。CIAは尋問開始の直後から強化手法を用い、ストレスポジション、立ったままの睡眠剥奪、裸、水責め、顔面と腹部の平手打ちを行なった。さらに医療的な判断を伴わずに直腸への水分補給なども行われた。その後、コードネーム「BLUE」、「SWIGERT」「DUNBAR」など複数のブラックサイトを転々とした。これらの施設における尋問は、モハメド被告の子供を殺害するとの脅しから始められたという。CIAの医務官は後に、水責めに採用された新たな技術について「溺死寸前」を行なっていると報告していた。
2006年にグアンタナモ湾収容キャンプに移送され、2007年の法廷審問で、テロの首謀者であると自白し、「9/11作戦のすべてに責任がある」と供述した。そのほかに、2001年12月に英国人テロリストのリチャード・リードがアメリカン航空機内で靴に隠した爆弾を爆発させようとした事件、2002年のバリ島爆弾テロ事件、1993年の世界貿易センター爆破事件を含む様々な事件の首謀者であると認めた。
モハメド被告以外に起訴されているのは、1999年にハイジャック犯2人に飛行機にカッターを持ち込み戦う方法を訓練したとされるワリド・ビンアタッシュ被告、ドイツのハンブルグでハイジャック実行犯を組織し、アルカイダ指導者の言葉や送金を行なったとされるラムジ・ビン・アル・シブ被告。アラブ首長国連邦からハイジャック犯に送金していたとされるアマール・アル・バウチ被告、ハイジャック犯のための資金調達や旅行の手配を手伝ったとされるムスタファ・アル・ハウサウィ被告の4人。
司法取引で死刑回避の可能性に遺族ら反発
先月、軍事委員会の首席検察官室が遺族らに送った書簡で、弁護側と公判前合意を結ぶことを検討しており、「死刑の可能性を排除する可能性がある」と伝えたと報じられた。
これに対して遺族や議会の一部の議員は激しく反発すると、バイデン大統領は先週、弁護側が提示した交渉条件を受け入れられないとするオースティン国防長官の推薦に同意すると明らかにした。
ニューヨークタイムズによると、弁護側は交渉の土台として、独房監禁の回避やCIAの強化尋問により受けた傷害の治療を求めたという。